妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (五)

奥座敷とは続き間になった書斎からも、庭で咲いている桜が見えた。  本来は奥座敷との間を板戸で仕切るのだろうが、住人が源之助一人のせいか、それは取り払われている。  源之助が満たしてくれた杯を持ったまま、葵はぼんやりと、夜の中に佇む桜を眺めて...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (四)

五年という歳月によって隔てられ、それだからこそ尚更に、葵と源之助の間で話は尽きなかった。  やがて次第に陽は西に傾き、源之助の「しばらくここを宿にして下さい」というすすめを、二人は受けることにした。 「主たる御方にそんなことはさせられません...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (三)

露店の主──源爺と葵に呼ばれた老爺は、ひとしきり号泣すると、こうしてはいられないとばかりに露店を片付け、二人を自身が住まう家へと案内した。  夜光には葵と老爺との関係は分からなかったが、葵を「若」と呼び、葵もまた「源爺」と呼んだそこに、察す...
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花衣に眠る (二)

この人里は、街道沿いから少し入った先の、連なる山嶺の裾野にあった。山を下ってくる豊かな清流から水を引き、あたりには広々とした農耕地が広がっている。  なんでも昔、たいそう桜好きな領主がいたそうで、里の随所に桜が植えられている。あの高台の御堂...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (一)

境内の長い古びた石段を登っていくうち、少し眠たげな色の青空に、風に巻き上げられた桜の花びらが舞った。 「あ……」  頭からかぶった白い被衣(かつぎ)を押さえながら、夜光はそれを目で追いかける。残りわずかだった石段を登りきった先で、その色の淡...