メビウスの蛇 一章 紅の相克 (2) 娘──トレイの上に飲み物を乗せた、控えめで清楚なドレス姿の女性給仕は、フィロネルの顔を見ると藍色の瞳をひどく驚いたように見開いた。慌てたように面を伏せ、腰を折る。 「あ、あの……お飲み物を差し上げようかと思ったのですが……大変失礼致し... 2020.08.08 メビウスの蛇
メビウスの蛇 一章 紅の相克 (1) 一年を通して曇天が多いこの国に、今日も雨が降っていた。霧雨と本降りの間くらいの、まだ弱く優しい雨だ。 お世辞にも整備されているとはいえない路地の片隅に座り込んだ「彼」は、襤褸の外套を頭から被り、気持ち程度の庇の下で、懐中に小振りの短剣を抱... 2020.08.08 メビウスの蛇