八重山振りの君

八重山振りの君

八重山振りの君 (八) -完結-

そっと小屋に戻ると、夜光は幸い目を覚ました様子はなく、穏やかな寝息を立てて眠り続けていた。夜光が気が付いて心配してはいないかと、それが気懸かりだったので、葵はほっとした。  眠っている夜光の顔を見たことで、葵も糸が完全に切れた。ひどい疲労感...
八重山振りの君

八重山振りの君 (七)

瞬間。  ぱあん、と、音ならぬ音が鼓膜を叩いたようだった。濃霧に閉ざされていたようだった視界が、瞬時にして晴れ渡る。  涼みを帯びた夜風が、心地良く頬に吹き付けた。気が付けば葵は、すっかり息を切らしながら、抜き身の太刀を手に、静かな夜道に立...
八重山振りの君

八重山振りの君 (六)

外に出てみると、村の外に続く道のほうに、金色に光る何かが見えた。大きなものではない。葵の膝丈まであるかないか、というくらいの、まるで小型の獣か、さもなければ幼児くらいの大きさだ。  葵が気が付いたことを察したように、すっとそれは遠ざかる。少...
八重山振りの君

八重山振りの君 (五)

その、夜半過ぎ。ふっと、葵は目を覚ました。  よく寝ていたように思う。何故自分が目を覚ましたのかよく分からず、葵は仰向けになったまま、ぼんやりとあたりを眺めた。  光源が囲炉裏の小さな火種だけなせいで、小屋の中はほぼ夜の帷に呑まれている。粗...
八重山振りの君

八重山振りの君 (四)

季節をいくらか早とちりしてしまったらしい一匹だけのひぐらしの澄んだ声が、深まってゆく夕暮れの空に響いていた。  村のあちらこちらで、夕餉のために煮炊きする匂いと湯気が立ちのぼっている。地面を歩けば影法師が揺らめきながら長く長く伸びてゆく、そ...