六花咲きて巡り来る

六花咲きて巡り来る

桜花舞いて廻り来る

頬の近くを横切った花びらに、文机に向かって書き物をしていた長は、ふと面を上げた。 何処からともなく花の香が漂う、眠たくなるような春の宵。少し朧な白い月の見える、開け放たれたままの半蔀から、誘われるように桜の花びらが舞い込んでくる。それは時な...
六花咲きて巡り来る

終章 ─ 匂夢 ─

ひらりひらりと、花の様な雪が降る。その中で、小夜香は随分長いこと、槐の胸元にしがみつくようにして泣いていた。 待っていろ、とだけ言われて、何日も何日も、その言葉ひとつを信じて、ずっと槐の帰りを待ち続けていた。別れたときの槐の状態があまりにひ...
六花咲きて巡り来る

禍夢 ─ 残夢 (四) ─

斬った、と思ったときに手応えがあった。それは人の生身を斬ったとは思えないような、かつて味わったことのない奇妙に柔らかいような感覚だった。 だがそんなことは構わず、斬り降ろしたそのまま太刀を投げ出し、葵は両腕で夜光を引き寄せて抱き締めた。 斬...
六花咲きて巡り来る

禍夢 ─ 残夢 (三) ─

「!────」 夜光が身じろぎし、ものすごい力で葵を振り解いて突き飛ばした。それと共に、ゆらめくように立ったその身に、鬼火のように赤黒い炎が灯り出す。その炎の色は、あの観音像を包む炎と同じ色をしていた。「うっ……」 突き飛ばされた拍子に、葵...
六花咲きて巡り来る

禍夢 ─ 残夢 (二) ─

颯介。その名を、夜光が語ってくれた昔語りの中から、葵は思い出す。確か神島の地下に入り込み、そこにあった呪物に粗相をして、蛇神の封印を歪める原因となった人物の名だ。 正直を言えば、葵には今このときまで、夜光の見ていた夢というのが「過去に起きた...