六花咲きて巡り来る

六花咲きて巡り来る

禍夢 (八)

寝具に横たわっていた小夜香が、何の前触れもなく、ふっと眼をさました。「あら、小夜香様。お目覚めですか」 たまたま様子を見に来ていた亜矢が、それに声をかける。 小夜香はそれに見向きもせず、眼を見開いて虚空を見回した。「……秋人兄様?」 ぽつり...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (七)

「そういうことか……」 読み取った洪水のような情報と、長いこと限度を超えて集中し続けたせいで、頭がふらついた。事態を把握したことで、一瞬気が緩む。ふっと、そのまま意識が落ちそうになる。 身を支えることが出来なくなり、そのまま棒のように横ざま...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (六)

颯介が階段をまろぶように駆け上がって、逃げてゆく。それを秋人は一瞬追おうとしたが、この場の状況のあまりの異常さに、そうすることが出来なかった。 ぐるりと室内を見渡す。壁際に、赤黒い炎をまとったものが落ちている。あれは、この祠におさめられてい...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (五)

身に迫ってくるような暗闇は、まるで質量を伴っているように感じられた。手燭を掲げていても、ほとんど手元と、数歩先がぼんやり程度にしか見えない。 こんなところで、間違って足を滑らせたら大事になる。颯介は片手を壁に添えながら、慎重に、ゆっくりと石...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (四)

颯介は一人、湖の中央にある小島を訪れていた。 神聖なる禁域とされている場所だから、里長の息子とはいえ、人目につくと面倒くさい。ただ、もし何かあったときのために、屋敷の下女にだけは、ここに来ることを言い置いておいた。 目立たないように小舟を出...