六花咲きて巡り来る

六花咲きて巡り来る

禍夢 (三)

夜間ににわかに湧いて空を塞いだ雲は、翌日には風に流されていた。 昨夜はあれから、秋人はすぐに書庫に籠もって代々受け継がれてきた守り人の文献を調べ始め、槐はまた表に出て社殿の護りに当たっていた。「日があるうちは、相手はそう活発ではない。様子を...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (二)

秋人がかいつまんで状況を説明する間、颯介はじっと黙り込んで話を聞いていた。とはいっても、説明自体はそう長いものでもなかった。 秋人の言葉が途切れると、颯介は深々と息をつき、前髪を掻き回すようにしながら唸った。「ええっと……つまり、何だ? ま...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (一)

あれほど晴れていた夜空には、いつの間にか重い靄雲が垂れ込め、天からの明かりを遮っていた。 かつてない大きな地震に、祭りに興じていた人々はすっかり肝を潰し、一転して恐慌に見舞われていた。 湖畔に設営されていた神饌台は崩れ落ち、祭櫓には篝火から...
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幕間 ─ よみがえり ─

「…………っ!、あっ……!」 自分の胸元を掻きむしるようにしながら、夜光は跳ね起きていた。 地獄の炎に炙られているように、全身が熱い。肌がじくじくと焼け爛れてゆくような、恐ろしい熱さと苦痛に、悲鳴を上げたくても上げられない。 その様子に気が...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (十五)

「っっっはーーーーー。つっかれたああぁーーー」 戻って来た社殿の控えの間にて。ぐん、と全身を思い切り伸ばして、小夜香は爪先まで大きく伸びをした。亜矢が持ってきてくれた水を一気にあおり、ぷはーっと息を吐く。「うっまあーーい。亜矢ぁ、水がうまい...