六花咲きて巡り来る

六花咲きて巡り来る

曲夢 (十四)

金色の大きな満月が、澄んだ濃紺の夜空に昇っている。夜の王に付き従うよう、見渡す限りの晴れた夜空に、降るような星々がきららかにまたたいている。 神楽殿の袖、他の誰からも見えない場所に、白布で囲われたささやかな斎垣(いがき)が設置されている。小...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (十三)

「ああ、ほら小夜香様。まだ動いちゃなりませんってば」「うー。もう疲れたよぉ。首痛いよー。足も痛いよー」「もうちょっとの辛抱です。今せっかくちゃんとしてるところなんですから、あともう少し頑張ってください」 慎ましく整えられた社殿の一角。龍神へ...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (十二)

秋人は背筋を伸ばし、切り換えるように顎を引く。「それで、小夜香。──とりあえず、いろいろ聞いたけれど」「はい」 秋人にならって、小夜香も姿勢を正す。そこにいる秋人は、もう少しも取り乱したところもなく、落ち着いた居住まいを取り戻していた。「あ...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (十一)

里の皆は作業に出払ってしまっているので、道すがら、ほとんど誰とも行き違うことはなかった。 鵯(ひよどり)や百舌(もず)が、青空に声を響かせている。小夜香は最初は懸命に先を行く秋人に追いつこうとしたが、どうやらお屋敷に戻っていくようだ、と察し...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (十)

里に、いよいよ収穫の時期がやってきた。 作物の熟れ具合によって、今日はこっち、明日はあちらと、里中が収穫作業で賑やかだ。 小夜香は巫覡の日々の勤めと、この後すぐにやってくる秋祭りの準備が優先ではあったが、可能な限り収穫の手伝いにも加わる。な...