六花咲きて巡り来る

六花咲きて巡り来る

曲夢 (九)

盂蘭盆を過ぎるとツクツクボウシの鳴き声が目立つようになり、朝晩の空気が日毎に涼しさを増してくる。 今年の稲穂は順調に色付いており、収穫に向けて、人々はそれぞれ稲縄をこしらえ始めたり、稲刈り用の道具の手入れをしたり、稲架(とうか)や稲木(はざ...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (八)

「ひッ……」 いったいいつからそこに。いや、それよりも、あれらは何だ。 見たことも無い怪異に、小夜香の全身から血の気が下がった。意図せず吐き気がこみあげてくる。何も詳しいことなど分からない。だが、あれらが近付くことすら拒絶するほどの呪わしい...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (七)

青々とした稲が白く可愛らしい花を咲かせる頃に、盂蘭盆会は催される。そしてそれを境に、夏から秋へと、季節はゆっくり移ろい始める。 この後に大きな秋祭りが控えているため、里での盂蘭盆会は控えめだ。麻幹(おがら)や麦に小さな火を灯し、各自の軒先や...
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幕間 ─ 夕闇 ─

夕凪を蜩の声が震わせる中、葵は寺の裏庭にある井戸で水を汲んでいた。 下手をしたら物の怪でも出そうなほど、寺は半ば廃墟じみた有り様だが、幸いなことに井戸水は澄んでいる。今の夜光の状態を考えると、冷たい清水を豊富に使えるのはありがたかった。 あ...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (六)

次にまた会ったら、差し違えてでも、と思っていたのに。 小夜香は目の前の槐を眺めながら考える。だが、こちらを害する気配がないもの相手に武器を抜くことには、本能から躊躇いが生じる。害を為さないのであれば、歓待などはしてやらぬが、少なくとも無闇に...