禍夢 (二)

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 秋人がかいつまんで状況を説明する間、颯介はじっと黙り込んで話を聞いていた。とはいっても、説明自体はそう長いものでもなかった。
 秋人の言葉が途切れると、颯介は深々と息をつき、前髪を掻き回すようにしながら唸った。
「ええっと……つまり、何だ? まず龍神様が実は龍神様じゃなくて、本当はその蛇神ってやつで? 遠い昔に封印されたはずのそいつが、今頃になって蘇ろうとしてて。で、何かと邪魔になりそうな小夜香を、やれるうちにやっちまおうってことで、そいつが呪いを飛ばしてきて、今えらいことになってる。ってことでいい?」
「おおむね良いと思う」
 むしろ今この状況で、そこまでよく把握してくれたものだと、秋人はありがたくも感心する思いだった。
「で、おまえは」
 颯介は無言で立っている槐に、鋭く眼を向けた。
「なんか知らんけど、このややこしい事態のときにポッと現われた妖ってわけか。そんなもん、まともに考えて信用できるか?」
「そう思うのも当然だろうと思うよ」
 秋人は複雑な思いで、そこに言葉を挟んだ。実際に秋人自身も、当初は颯介と同じ疑念を抱いたし、まだ納得しきれていない部分もある。それらを噛み砕きながら、慎重に言葉を綴った。
「俺も正直を言えば、槐を信頼していいのか分からない。でも、小夜香はこいつを信頼していた。それに実際に槐は、小夜香を何度も助けている。それから今この社殿を、蛇神の手のものから護ってもいる。……それが俺にも分かる以上、蛇神と関係している、とは言えない、と……思う」
「まあ、そのへんは、俺には全然なんも視えないし分からないから、なんとも言えねえけどさ」
「──何か勘違いをしているようだが」
 そこに槐が、話を断ち切るように言葉を投げ込んできた。振り向いた先で、軽く腕を組んだ姿勢の槐が、ひどく醒めた目付きをして二人を眺めていた。
「おまえたちが俺を信じるか信じないかなんぞ、どうでもいい。俺は俺で、勝手にやることをやるだけだ」
「槐。小夜香が大事なのは、俺たちも同じなんだ。だったら今は協力した方が」
 思わず言いかけた秋人を、カチンときたように遮ったのは颯介だった。颯介は秋人を下がらせるように、その前に腕を突き出す。槐を斜に見ると、吐き捨てるように言った。
「あっそう。俺らも別に、おまえの理解も信頼も求めちゃいねえよ。つーか、どうやっておまえを信用しろってんだ? 秋人も、なんでこいつを疑わない? 話を聞いた限り、小夜香の周りに変なもんが現われ始めたのは、こいつが現われた後からなんだろう」
「颯介、それは」
「今この場をこいつが護ってるのは事実だろうさ。でもそれだって、小夜香のためなんだろう? どうせ今までのおかしなことも、全部こいつが仕組んでたんじゃねえの」
 颯介の声が低くなってゆく。槐に対する反発と猜疑を隠そうともせず。
「しょせんこいつは、得体の知れない、狡猾で何を考えてるのか分からない、俺らとは相容れない穢れた化け物だ。小夜香は誑かされてるだけだって、なんでそう考えない?」
「言い過ぎだ、颯介──」
「眼ぇ覚ませよ秋人! このままほっといたら、この化け物に小夜香を攫われちまうぞ!?」
 颯介は叩き付けるように強く言い、秋人を振り返った。そのいつもは明るい眼の中には、およそ秋人が初めて見た色が、炎のように揺らめいていた。
「颯介……」
 強い苛立ちと、拒絶と嫌悪。と、おそらくそれを根底で支配している、小夜香を奪われることへの激しい抵抗と、──嫉妬から来る対抗心。
 颯介は槐を横目に見ながら言った。
「こいつの言うことも、どこまで本当だか分かんねえだろ。小夜香のことだって、本当に蛇神とやらの呪いなのかよ? 普通に病気の可能性もあるってのにさ。なんなら、こいつが都合よく小夜香を連れ出すためにやったってのも、十分あり得るだろうが」
 ふい、と颯介は部屋の出口に向かって歩き出した。その背を秋人が呼び止める。
「颯介、待ってくれ」
「明日にでも街に行って、祈祷師と医者を呼んで来るわ。まず俺らがやることはそれだろ。もし小夜香の容態が急変するようだったら、すぐうちに連絡寄越してくれ。そいつがいるとこに一緒に居たくねえし、今夜はいったん帰る」
 出口のところで足を止め、颯介は槐を強く睨み付けた。
「おまえさ。今だけは大目に見てやるけど、さっさとこの里から出て行けよ。でなきゃ、こっちにだって考えがあるぜ」
「ほう」
 それまでただ颯介が言うのを聞いていた槐が、そこでやっと口を開いた。その瞳孔の縦に長い、明らかに人間とは種そのものを異にする紫の双眸が、うっすらと鬼火を宿したようにゆらめいて光る。
 ぞくっ──と、それを見た秋人の背筋に寒気が走った。
「黙って聞いていれば。まったく、貴様ら人間は、寄ると触ると事あるごとに穢れた化け物だの何だの。貴様ら人間こそ、いったい何様のつもりだ」
 その底冷えした眼差しに、颯介も顔色を変えてたじろぎを見せた。だが槐を睨み付けたままの視線は外さない。
「は? 何を言いたいわけ?」
「この蓬莱で地べたを這いずり回り、生きとし生けるものたちの命を食らい、他の領域を犯して踏み荒らしながら、ようやく惨めに生きながらえている。それが貴様らだ。その貴様らが、我ら妖よりもどれほど上等だという?」
「なっ……」
 口を開きかけた颯介を、槐がまさしく見た者の心胆を寒からしめる眼光で黙らせた。
「思い上がるな。人間」
「っ……!」
 颯介の顔からさっと血の気が引き、その足が後ずさった。拍子に出口の木枠に手がぶつかり、それで我に返ったようにハッと息を呑む。
「……と、とにかく、すぐにここから出ていけよ。おまえみたいなのが纏わり付くから、小夜香がおかしくなったんだ。絶対許さねぇからな!」
 言い残し、颯介は部屋から走り出て行った。
「颯介!」
 秋人は通路に出て途中まで追いかけたが、颯介はその秋人のことも拒絶するように一切振り返らず、そのまま社殿の外に走り去っていってしまった。


 秋人が消沈して部屋に戻ると、槐がいかにも底意地の悪い笑みを浮かべてそれを迎えた。
「話の通じないお粗末な頭の輩が友人だと、苦労するな」
「……颯介の行きすぎた非礼は、詫びる。すまなかった」
 いろいろと言いたい思いはこらえて、秋人は槐に頭を下げた。くつくつと槐は笑っている。しかしその眼が笑っていないことを、秋人は見逃さなかった。
「構わんぞ。あんなことは、どうせ言われ慣れている。気分が良いかは別としてな」
「……人が人でないものを受け入れることは、ひどく難しいんだ。だから許してほしい、とは言わないが。できればおまえにも、もう少し穏やかにいてほしかった」
 そうすれば、颯介もだいぶ違ったのではないかと思う。槐が突き放したことが、あそこまでの諍いの起爆剤になってしまったのは否定できない。力が強い妖ほど独立不羈なものだ、と認識している秋人でも、槐の他を寄せ付けない尊大さは手に負えないものがあった。
「この非常時に、俺を信頼するだのしないだので揉めていることが、あまりに理非を弁ぜぬたわけに見えたんでな」
 冷ややかに言い捨てた槐に、秋人は溜め息を吐いた。
「そうだとしても、もう少し言い様があるだろう」
 そこでふと、秋人は気が付いた。
「そうか。……珍しく余裕を欠いているんだな、おまえも」
 すると槐は、不意打ちを食らったような、決まりの悪そうな表情になった。
「余裕を欠きもするさ。なかなかに笑えんぞ、今の状況は」
 図星だったせいか、氷のようだった槐の空気が、それでいくらか和らいだ。おそらく気が立っていることを指摘されて、槐自身それを初めて自覚し、すぐさま制御するほうに思考が動いたのだろう。
 こいつにもそういうことがあるのだなと、秋人は軽い親近感のような、今までよりは槐を近く思う気持ちがわいてきた。徐々に槐の扱い方が分かって来たようにも思う。
 この件にはこれ以上ふれずに、秋人はやんわりと話の口を切った。
「状況を、あらためて訊いてもいいか」
「一言でいえば、最悪の手前だ」
 槐はちらりと秋人を見て、言った。
「蛇神の封印は解けてはいないが、あそこまで箍が緩んでいるなら、もういつ解けてもおかしくはなかろうな。封印が解ければ、この里のみならず、このあたり一帯が広く蛇神に蹂躙され壊滅するだろう。それこそ遙か昔の災厄のように」
 思わず、秋人は固唾を呑んだ。ある程度想定はしていたとはいえ、それがこうも急激に、目の前に現実として立ちはだかってくると、さすがに身体が震えた。
「それなら、どうすればいい」
「おまえたちも、結果的に小夜香と同じことだ。早急にこの地を捨てて、出来る限り遠くへ逃げること。里ぐるみ、出来ればこのあたりの他の村落にも、そうさせた方が良い」
 淡々と言われて、秋人はしばし茫然と佇む。やがて強く奥歯を噛んだ。
「……簡単に言ってくれる」
 それは槐のような、力ある妖には造作もないことだろう。だが秋人ら無力な人間にとって、代々開墾してきた安全で住み慣れた土地を捨てるのが、安定した生活の基盤を全て棄てて見知らぬ土地に流れることが、どれほど重大で困難なことであるか。ましてやこれから、季節は冬になろうというのに。
「それでも、命あってのものだねだろう」
 槐は眉ひとつ動かさずに言った。その眼の奥に、冷えた本気の色がかすめる。
「いつまでもこの状態では、封印も小夜香も長くは保たんぞ。おまえたちが愚図愚図しているのなら、俺は小夜香を連れてこの地を離れる。さっさと出て行けと、里長の息子からも言われていることだしな」
 皮肉気に口角を上げる槐に、秋人は咄嗟に声を高めた。
「待ってくれ。小夜香は俺の妹だ。それにこの里は、小夜香にとって生まれ育った大切な場所だ。おまえが小夜香を攫っていったとして、それで呪いが解けたとして、小夜香がそのときどう感じると思う」
 槐は表情を変えないが、秋人を見たまま動かない。秋人は懸命にたたみ掛けた。なんとしても、今このまま、槐を行かせてしまうわけにはいかなかった。
「小夜香を想うなら、もう少しこちらに猶予をくれ。──小夜香は、……小夜香も人間なんだぞ」
「…………」
 槐はしばらく黙っていた。やがて表情も声音もそのままに、槐は口を開いた。
「では、おまえたちはどうすると言う」
「……このまま手をこまねいていれば、いずれ最悪の形は避けられないだろうとは思う。でも、まだ事態を回避できる手は残っているんじゃないのか。──蛇神が今、本当に万全な状態であれば、小夜香はもうとっくに死んでいるんじゃないのか?」
 探るように、あるいは慎重に斬り込むように言った秋人に、槐はややあって、にやと薄く笑った。
「ほう。気が付いていたか」
 秋人は槐の思惑と出方を窺うべく、出来る限りゆっくりと受け答えた。
「もし蛇神の力が文献の通りであるとするなら、漏れ出た片鱗程度の力であれ、小夜香ひとりくらいは難なく殺せていたはずだ。だが現状、それが出来ていない」
 槐は何も言わない。仕方なく秋人は、その先までを続けて言葉にした。
「気が遠くなるほどの時間を封印され続けたこと、加えてこの里がその間ずっと絶やさなかった龍神信仰が枷になって、今の蛇神は昔に比べれば相当に弱っているんじゃないのか。そうであれば、まだ俺たちにも目があるだろう。違うか?」
 今度こそ、はっきりと槐は笑んだ。だがその笑い方は、どこか嘲笑的で、心根のまったく見通せないものだった。
「俺たち、と言うか。では、なんだ。まさか俺に、あの蛇神を始末しろとでも?」
「──それが出来るのであれば、一番良いんじゃないのか。勿論俺たちも、ただ見ていたりはしない。出来る限りの支援はする」
「くだらんな。絵空事だ」
 槐は嘲るように切り捨てた。
「里長の子が、あれほど俺に敵愾心を抱いている。ましてや他の無知蒙昧な人間どもが、事情を知ったところで、そんなことをおいそれと承諾すると思うか? 俺が正体を明かした途端、やれ巫覡を呪ったのはおまえだ、おまえがすべて企んだのだろうと、全員血相を変えて俺に刃を向けるさ。何より」
 秋人を見据える槐の紫の瞳が眇められ、ふれれば凍りそうなほどに冷えた色を帯びた。
「何故俺が、貴様ら人間どものために命を張らねばならん。弱っているといったところで、相手が一匹で数國を焦土に変えることができる化け物であることに変わりはないぞ。それを相手取って斃せとは、俺に死ねと言っているようなものだ」
「それは……」
 返す言葉もなく、秋人は詰まった。槐の言い分も、うっすらと感じ取れる怒りももっともだった。
 妖と人とは、そう簡単に相容れることなどできない。槐の態度にも問題はあるが、妖なのだからそうなのだろう、と頭から決めつけてその考えを汲み取ろうとしないこちら側にも、十二分に問題はある。
 だが何よりも絶対的に、人間と妖とでは、そもそも立つ世界が違う。視ているものが違い、種としての強さに、彼我の差がありすぎる。そして人が妖を疑い拒絶する、その根底には、昔からの人と妖の関わりがそうであった、強者である妖が弱者である人を誑かし、搾取し害してきたという認識、物語りがある。
「……本当にすまない。俺も、他の皆と変わりがない。おまえがそう言うのも当然だろうな」
 颯介ひとりを説得できないのに、里の人々全員を納得させられる自信など、秋人には持てなかった。槐への拒絶と警戒が、人としてはむしろ自然なことですらあるのに、それをどう覆せば良いのか。まして下手をせずとも、槐の言う通り、ことを明かせばとどめようのない群集心理を招くことは、想像に容易かった。
 だがそれでも、ここで秋人が引き下がるわけにはいかなかった。この事態を乗り越えるには、人間の力だけでは到底足りない。手が欲しい。人ならぬものに対抗できる、強力な手が欲しい。
「俺が今さらこんなことを言うのは虫が良いことは、百も承知している。土下座をしろというなら、それでおまえの気がすむなら、いくらでもそうしよう。槐、どうか折れてくれ。おまえ一人でやれとは言わない。俺は龍神の守り人だ。出来ることがあるなら何でもする。事が全部終わったあとに、俺を殺したいと思うのならば殺してもいい。だから、今はどうか力を貸してくれ。頼む」
 真正面から槐を見据え、秋人は訴えた。黙って見返してくる槐の瞳は底が知れなく、今この場で殺されるのではないかと思うほどの圧があった。
 秋人は全身から冷や汗が滲み出、手足が震えて、後ずさりたい衝動を懸命にこらえた。今ここで引き下がったら、一切の未来がついえる。
 それに秋人には、ひとつの読みがあった。槐はおそらくだが、性分的に、真正面から対峙してくるものをおろそかにしない。善悪や好悪の範疇を超えて、そういうものを好ましく思い、敬意を払うであろう高潔な武人のような気質が、槐からは伺えるように思った。
 一縷の希望と計算を絡め、だが口にした言葉の一切は違わぬ本心のまま、秋人はただ槐の返事を待った。
 いい加減緊張の糸がもたなくなりそうになった頃、ふいに槐が薄く笑んだ。その紫の瞳が、秋人を値踏みするように妖しく耀く。
「この俺を利用するか、龍神の守り人。貴様もだ。人の身の分際で、随分と思い上がったものだな」
「──思い上がりでもしなければ、おまえと真向かえないだろう」
「開き直るか。ふん。いいだろう。貴様の覚悟が本物でさえあるなら、乗ってやらんこともないぞ」
 槐はどこか面白そうに薄く笑んだまま、悠然と腕を組み、表情を隠すように口許に手を当てた。
「だが、どうする。あれは封印という殻に籠もったままだ。あれは奴を閉じ込めているが、同時に守ってもいる。あれを斃せというのなら、まずは引きずり出すことが必要だが」
「……封印をあえて解く他にないだろう。どちらにせよ、このまま放っておいたら、最大限に封印が緩んだ状態で蛇神は蘇ることになる。そうなってから封が破れたら、弾け飛んだ封印の余波で、あたりに及ぶ被害も輪を掛けて拡大する。それならば、そうなる前にこちらから封印を解いて出してやった方が、まだしもましな状況になると思う」
「なるほどな。だが問題は、どうやってそれを為す?」
 槐は薄く笑い続けている。まるで状況を楽しんでいるような様子だった。
「言っておくが、俺はやらんぞ。あの封印は強力ゆえ、下手に近付けば俺にも障る。ましてあの蛇神自体、生きとし生けるものすべてを憎悪し滅ぼそうとする、まさに古よりの死穢を纏う呪いの塊だ。そんなものに近付くだけで、生き物はたやすく死ぬ」
「……つくづく、恐ろしいものをこの地に残してくれたものだな、古代人たちは」
 思わず溜め息をついた秋人に、槐はそれまでよりは若干口調をやわらいだものに変えた。
「今まで封じられてきただけましだろう。この世には、いずれ壊れないものなど無いんだ」
 秋人は槐を見返し、まだ強張ってはいたが、ようやく口許程度に笑みを作った。
「封印を解く手立ては、これから考える。いくつか文献の記述に心当たりがあるから、それをあらためて探ってみようと思う。──感謝する、槐」
「礼を言うのは早いぞ。もしそれが間に合わないようであれば、言った通り、俺は小夜香を連れてさっさとここを離れる。小夜香の容態が、これ以上は危険だと判断した場合も同様だ。俺はこの里よりも、他の人間どもよりも、小夜香のことを優先する。それが俺に示せる、ぎりぎりの妥協点だ」
「分かっている。それは、そうなったら、仕方の無いことだ」
 秋人は視線を落とし、下げた両の拳を握った。そうはさせたくない。だが、もしもそうなってしまったら、むしろ最悪の事態でも小夜香だけは助かると思えば、まだ救いがあると言えた。
「出来るだけ急ごう。……それから、颯介にももう一度話をしてみる。あいつの理解を得ることが出来るなら、俺にとっても心強いから」
「あれは無駄だと思うがな」
 軽く槐が言った。その眼の奥は冷ややかなままだった。
「話せば分かるものは、始めからある程度の寛容さと理解力を持っている。ただ憎悪や嫌悪をもって拒む相手に、何を言ったところで伝わらん」
「そうかもしれないが。あれでも、俺の親友なんだ」
 秋人は少し寂しいような笑みを見せた。
「とにかく、俺もやれることは何でもやってみるよ。──小夜香をよろしく頼む」
 槐はそれに対し、何も言わなかった。ただ様々なことを測るように、その眼の奥が薄く光っていた。

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