妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

誰そ彼の道往き (後)

眠り込んだままの少年の髪を、夜光はずっと撫でてやっていた。  次第に陽は傾き、東の空が透明な青から藍にうつろう。かわりに、西の空は滲むような朱を増してゆく。  鴉の数も増え、ぎゃあぎゃあと鳴き交わす声が煩かった。何羽か近くまで寄ってきたが、...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

誰そ彼の道往き (前)

「坊や。そこの坊や」  秋晴れの空の下。見渡す限りの焼け野原。  道なきそこを、動かない片足を引きずりながらよたよたと歩いていた弥一(やいち)は、ふいに背後から聞こえてきた声に立ち止まった。  あたり一面には、焼けた田畑と森と原っぱ。それに...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (八) -完結-

はらりはらりと、白い花びらが音も無く舞う。青い空に桜が透けるのを、夜光は庭に立って見上げていた。  ──昨日、あれから夜光と葵は、長いことただ身を寄り沿わせていた。長い時間をかけてようやく葵が動けるようになると、二人で源之助の身体を清め、寝...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (七)

翌日も、よく晴れていた。高く透ける青空に、里のほうぼうで咲いている桜が淡くきらめき、軽やかに花びらが舞っている。どこかの枝で軽妙に鳴き交わす鶯の声が美しかった。  源之助の様子は、先日までとまったく変わらなかった。葵もまた特別何も言おうとせ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (六)

障子を透かして、青白い月光が滲む中。ふ、と夜光が目を覚まして横を見ると、隣の寝床には誰の姿もなかった。 「……葵?」  ついさっきまでそこに葵がいたことを示すように、寝具は若干寝乱れている。ふれてみると、体温も少し残っていた。  月の位置か...