八重山振りの君 八重山振りの君 (三) きゃっきゃ、と賑やかにはしゃぐ子供たちの声が、日毎に夏色の深みを増してゆく青空に響き渡る。 村の中程にある広場のような場所で、元気な盛りの子供たちの相手をしている葵の様子を、夜光はいくらか離れた木陰に座って眺めていた。 月天の羽衣──夜... 2024.10.27 八重山振りの君妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編
八重山振りの君 八重山振りの君 (二) その日は、いったんその場で野宿をすることにした。 手当てをしたとはいっても、夜光の捻挫はかなりひどく、右脚にまともに体重をかけられなかった。 二人の道中は、夜光の義父である「終の涯(ついのはて)の長」から賜ったいくつかの宝物のおかげで、... 2024.10.27 八重山振りの君妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編
八重山振りの君 八重山振りの君 (一) 初夏らしく強さを増してきた陽の光に、夜光は白い指先でつまんだ一枚の葉をかざした。 雑木林の中を通る、ほとんど獣道のようなそこの途中。腰掛けがわりにちょうど良かった岩に、白い被衣(かつぎ)を纏った夜光は、ひとり座っていた。 つまんだ葉は、... 2024.10.27 八重山振りの君妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編 誰そ彼の道往き (後) 眠り込んだままの少年の髪を、夜光はずっと撫でてやっていた。 次第に陽は傾き、東の空が透明な青から藍にうつろう。かわりに、西の空は滲むような朱を増してゆく。 鴉の数も増え、ぎゃあぎゃあと鳴き交わす声が煩かった。何羽か近くまで寄ってきたが、... 2023.09.21 妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編誰そ彼の道往き
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編 誰そ彼の道往き (前) 「坊や。そこの坊や」 秋晴れの空の下。見渡す限りの焼け野原。 道なきそこを、動かない片足を引きずりながらよたよたと歩いていた弥一(やいち)は、ふいに背後から聞こえてきた声に立ち止まった。 あたり一面には、焼けた田畑と森と原っぱ。それに... 2023.09.21 妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編誰そ彼の道往き