妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

八重山振りの君

八重山振りの君 (三)

きゃっきゃ、と賑やかにはしゃぐ子供たちの声が、日毎に夏色の深みを増してゆく青空に響き渡る。  村の中程にある広場のような場所で、元気な盛りの子供たちの相手をしている葵の様子を、夜光はいくらか離れた木陰に座って眺めていた。  月天の羽衣──夜...
八重山振りの君

八重山振りの君 (二)

その日は、いったんその場で野宿をすることにした。  手当てをしたとはいっても、夜光の捻挫はかなりひどく、右脚にまともに体重をかけられなかった。  二人の道中は、夜光の義父である「終の涯(ついのはて)の長」から賜ったいくつかの宝物のおかげで、...
八重山振りの君

八重山振りの君 (一)

初夏らしく強さを増してきた陽の光に、夜光は白い指先でつまんだ一枚の葉をかざした。  雑木林の中を通る、ほとんど獣道のようなそこの途中。腰掛けがわりにちょうど良かった岩に、白い被衣(かつぎ)を纏った夜光は、ひとり座っていた。  つまんだ葉は、...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

誰そ彼の道往き (後)

眠り込んだままの少年の髪を、夜光はずっと撫でてやっていた。  次第に陽は傾き、東の空が透明な青から藍にうつろう。かわりに、西の空は滲むような朱を増してゆく。  鴉の数も増え、ぎゃあぎゃあと鳴き交わす声が煩かった。何羽か近くまで寄ってきたが、...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

誰そ彼の道往き (前)

「坊や。そこの坊や」  秋晴れの空の下。見渡す限りの焼け野原。  道なきそこを、動かない片足を引きずりながらよたよたと歩いていた弥一(やいち)は、ふいに背後から聞こえてきた声に立ち止まった。  あたり一面には、焼けた田畑と森と原っぱ。それに...