妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

六花咲きて巡り来る

禍夢 (五)

身に迫ってくるような暗闇は、まるで質量を伴っているように感じられた。手燭を掲げていても、ほとんど手元と、数歩先がぼんやり程度にしか見えない。 こんなところで、間違って足を滑らせたら大事になる。颯介は片手を壁に添えながら、慎重に、ゆっくりと石...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (四)

颯介は一人、湖の中央にある小島を訪れていた。 神聖なる禁域とされている場所だから、里長の息子とはいえ、人目につくと面倒くさい。ただ、もし何かあったときのために、屋敷の下女にだけは、ここに来ることを言い置いておいた。 目立たないように小舟を出...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (三)

夜間ににわかに湧いて空を塞いだ雲は、翌日には風に流されていた。 昨夜はあれから、秋人はすぐに書庫に籠もって代々受け継がれてきた守り人の文献を調べ始め、槐はまた表に出て社殿の護りに当たっていた。「日があるうちは、相手はそう活発ではない。様子を...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (二)

秋人がかいつまんで状況を説明する間、颯介はじっと黙り込んで話を聞いていた。とはいっても、説明自体はそう長いものでもなかった。 秋人の言葉が途切れると、颯介は深々と息をつき、前髪を掻き回すようにしながら唸った。「ええっと……つまり、何だ? ま...
六花咲きて巡り来る

禍夢 (一)

あれほど晴れていた夜空には、いつの間にか重い靄雲が垂れ込め、天からの明かりを遮っていた。 かつてない大きな地震に、祭りに興じていた人々はすっかり肝を潰し、一転して恐慌に見舞われていた。 湖畔に設営されていた神饌台は崩れ落ち、祭櫓には篝火から...