妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

六花咲きて巡り来る

曲夢 (十二)

秋人は背筋を伸ばし、切り換えるように顎を引く。「それで、小夜香。──とりあえず、いろいろ聞いたけれど」「はい」 秋人にならって、小夜香も姿勢を正す。そこにいる秋人は、もう少しも取り乱したところもなく、落ち着いた居住まいを取り戻していた。「あ...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (十一)

里の皆は作業に出払ってしまっているので、道すがら、ほとんど誰とも行き違うことはなかった。 鵯(ひよどり)や百舌(もず)が、青空に声を響かせている。小夜香は最初は懸命に先を行く秋人に追いつこうとしたが、どうやらお屋敷に戻っていくようだ、と察し...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (十)

里に、いよいよ収穫の時期がやってきた。 作物の熟れ具合によって、今日はこっち、明日はあちらと、里中が収穫作業で賑やかだ。 小夜香は巫覡の日々の勤めと、この後すぐにやってくる秋祭りの準備が優先ではあったが、可能な限り収穫の手伝いにも加わる。な...
六花咲きて巡り来る

曲夢 (九)

盂蘭盆を過ぎるとツクツクボウシの鳴き声が目立つようになり、朝晩の空気が日毎に涼しさを増してくる。 今年の稲穂は順調に色付いており、収穫に向けて、人々はそれぞれ稲縄をこしらえ始めたり、稲刈り用の道具の手入れをしたり、稲架(とうか)や稲木(はざ...
その他

曲夢 (八)

「ひッ……」 いったいいつからそこに。いや、それよりも、あれらは何だ。 見たことも無い怪異に、小夜香の全身から血の気が下がった。意図せず吐き気がこみあげてくる。何も詳しいことなど分からない。だが、あれらが近付くことすら拒絶するほどの呪わしい...