妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (七)

翌日も、よく晴れていた。高く透ける青空に、里のほうぼうで咲いている桜が淡くきらめき、軽やかに花びらが舞っている。どこかの枝で軽妙に鳴き交わす鶯の声が美しかった。  源之助の様子は、先日までとまったく変わらなかった。葵もまた特別何も言おうとせ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (六)

障子を透かして、青白い月光が滲む中。ふ、と夜光が目を覚まして横を見ると、隣の寝床には誰の姿もなかった。 「……葵?」  ついさっきまでそこに葵がいたことを示すように、寝具は若干寝乱れている。ふれてみると、体温も少し残っていた。  月の位置か...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (五)

奥座敷とは続き間になった書斎からも、庭で咲いている桜が見えた。  本来は奥座敷との間を板戸で仕切るのだろうが、住人が源之助一人のせいか、それは取り払われている。  源之助が満たしてくれた杯を持ったまま、葵はぼんやりと、夜の中に佇む桜を眺めて...
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花衣に眠る (四)

五年という歳月によって隔てられ、それだからこそ尚更に、葵と源之助の間で話は尽きなかった。  やがて次第に陽は西に傾き、源之助の「しばらくここを宿にして下さい」というすすめを、二人は受けることにした。 「主たる御方にそんなことはさせられません...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (三)

露店の主──源爺と葵に呼ばれた老爺は、ひとしきり号泣すると、こうしてはいられないとばかりに露店を片付け、二人を自身が住まう家へと案内した。  夜光には葵と老爺との関係は分からなかったが、葵を「若」と呼び、葵もまた「源爺」と呼んだそこに、察す...