妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編 花衣に眠る (七) 翌日も、よく晴れていた。高く透ける青空に、里のほうぼうで咲いている桜が淡くきらめき、軽やかに花びらが舞っている。どこかの枝で軽妙に鳴き交わす鶯の声が美しかった。 源之助の様子は、先日までとまったく変わらなかった。葵もまた特別何も言おうとせ... 2022.11.01 妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編花衣に眠る
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編 花衣に眠る (六) 障子を透かして、青白い月光が滲む中。ふ、と夜光が目を覚まして横を見ると、隣の寝床には誰の姿もなかった。 「……葵?」 ついさっきまでそこに葵がいたことを示すように、寝具は若干寝乱れている。ふれてみると、体温も少し残っていた。 月の位置か... 2022.11.01 妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編花衣に眠る
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編 花衣に眠る (五) 奥座敷とは続き間になった書斎からも、庭で咲いている桜が見えた。 本来は奥座敷との間を板戸で仕切るのだろうが、住人が源之助一人のせいか、それは取り払われている。 源之助が満たしてくれた杯を持ったまま、葵はぼんやりと、夜の中に佇む桜を眺めて... 2022.11.01 妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編花衣に眠る
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編 花衣に眠る (四) 五年という歳月によって隔てられ、それだからこそ尚更に、葵と源之助の間で話は尽きなかった。 やがて次第に陽は西に傾き、源之助の「しばらくここを宿にして下さい」というすすめを、二人は受けることにした。 「主たる御方にそんなことはさせられません... 2022.11.01 妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編花衣に眠る
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編 花衣に眠る (三) 露店の主──源爺と葵に呼ばれた老爺は、ひとしきり号泣すると、こうしてはいられないとばかりに露店を片付け、二人を自身が住まう家へと案内した。 夜光には葵と老爺との関係は分からなかったが、葵を「若」と呼び、葵もまた「源爺」と呼んだそこに、察す... 2022.10.24 妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編花衣に眠る