妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

六花咲きて巡り来る

曲夢 (一)

入道雲の眩しい、高く真っ青な空から落ちてくる陽差しに、小夜香(さやか)は思わず掌をかざした。「ふーー……あっつぅー………」 天頂を過ぎていくらか経った真夏の陽光は、受ける肌をじりじりと炙るようだ。 少しでも涼しくなるかと、腰まで流れる黒髪を...
六花咲きて巡り来る

禁足地

「……光。夜光……」 うっすらと、自分を呼ぶ声がする。 薄暗い濁り水の中を、ゆらゆらと漂っているようだった。手足が重くて、それこそ水の中にいるように自由がきかない。なんだろう。さっきまで、白くて白くて……他には何も見えないような、清浄なほど...
六花咲きて巡り来る

序章 ─ 匂夢 ─

音も、風景も。ちょっとした息遣いさえ、白の中に呑まれてゆく。見上げた灰色の空から、白い花に似たものが舞い降りてきた。 ──ああ。また、雪だ。 長いこと立ち尽くすうちに手足の先が凍え、頬も唇も氷のように冷たくなっていた。長い黒髪は、今や雪化粧...
八重山振りの君

八重山振りの君 (八) -完結-

そっと小屋に戻ると、夜光は幸い目を覚ました様子はなく、穏やかな寝息を立てて眠り続けていた。夜光が気が付いて心配してはいないかと、それが気懸かりだったので、葵はほっとした。 眠っている夜光の顔を見たことで、葵も糸が完全に切れた。ひどい疲労感も...
八重山振りの君

八重山振りの君 (七)

瞬間。 ぱあん、と、音ならぬ音が鼓膜を叩いたようだった。濃霧に閉ざされていたようだった視界が、瞬時にして晴れ渡る。 涼みを帯びた夜風が、心地良く頬に吹き付けた。気が付けば葵は、すっかり息を切らしながら、抜き身の太刀を手に、静かな夜道に立ち尽...