Trance(2)

 レン。
 と、そのまったくもって廃都に似つかわしくない、それこそ夏の太陽のように明るい印象の相手は名乗った。
 とはいっても、こんな場所に流れてくるだけはあり、レンもまたどこかタガの外れたようなところがあった。
 サク自身も誰彼構わず寝る方だとは思うが、レンの奔放さも相当だった。外国人も珍しくはないとはいえ、やはり日本人の方が比率は高く、中でもレンの見事な金髪碧眼とスタイルの良い長身、そしてやけに甘く整った容貌は人目を引く。レン自身に自覚があるのかは知らないが、その外見につられてレンに言い寄る者は傍目にも多い。
 そしてレン自身も手頃な相手を引っ掛けることに熱心で、勿論言い寄ってくる相手を拒むこともない。こいつはそれが生き甲斐なんじゃないか、と思うほど、しょっちゅう誰かを連れていちゃついている。
 まあ、どこかしらおかしいからこんな街にいるんだよな。
 と、灰色の街角で遠目に金髪の姿を見ながら、サクは思う。
 初めて会った日、その足でレンの部屋のベッドになだれ込んだのだが、そこでのレンも相当だった。会ったばかりの相手にいきなり大きく脚を開かせて自慰させるような真似は、さすがのサクでも考えたことが無い。それをまったく罪もない顔で、けろりとしながら要求して、その後もレンはさんざんサクを抱いて楽しんだ。もっともサクも、金を取ろうなどとは露ほども考えず、たっぷりとそんなレンとの行為を楽しんだのだが。
 ​​​──変な奴。
 今日も相変わらず可愛らしい印象の少女を連れて、レンは歩いている。その様子を見ながら、サクは考える。
 普段からあいつは、あんな変態な淫乱馬鹿なのだろうか。いや、いちおう「こんなことはさせたことがない」とは言っていた気もするが。
 そもそも、あんなことをなぜ許したのかが自分でも不思議だ。不思議といえば、誰かに抱かれてあそこまで気持ちが良いと感じたことも初めてだった。感じやすい方である自覚はあったが、身体を撫でられただけでこの自分がひとたまりもないほど悶えてしまうなんて、どこかおかしくなってしまったのかと自分でも思ったほどだ。
 空は薄い青色を帯びて、今日もひんやりとしている。
 今日はアリサが夕方には戻ってくるから、それほど外に長居はできない。戻ろうかとも思ったが、サクは気が付いたら数十メートル先の街角にいたレンに向かって歩き出していた。
「およ? サクじゃん」
 歩み寄っていくサクに、すぐにレンが気が付いて、ぱっとその顔がいっそう明るくなった。
 人なつっこい笑顔で軽く手を振って近付いてくるのを見て、分かりやすい奴だな、とサクは感心する。こいつに尻尾でもついていたら、ぶんぶん振り回しているところだろう。
「あ、あの……あたし……」
 一方レンと一緒にいた少女が、サクを見てあからさまに怯えた表情を見せた。
 それにサクは黒い瞳を動かす。サクに見つめられると、ひっ、と少女が細い肩をすくませた。
 まぁ可愛い方ではあるだろう、派手な化粧の少女。こんなのがこいつの好みなのか、と軽く目を細めて口元だけに笑みを浮かべた。
「三人でする?」
 サクが言うと、ますます少女が目を見開いて青ざめた。ふるふると首を振って、逃げるように後ずさる。
「ご、ごめん、レン……あ、あたし、用事あったの思い出しちゃった。また今度ねっ」
「へ? あー、うん。またなー」
 呑気な様子のレンに見送られて、あっという間に少女は駆け出していった。
 その姿が曲がり角の向こうに見えなくなると、レンがサクを見下ろして、やや渋い顔をした。
「おまえさぁ。ヘンなこと言うなよ、急に。あの子はそーいう子じゃねんだからさ」
 思いの他真面目なその様子に、サクは少し意外に感じた。
「そういう子じゃない? でもどうせ寝るとこだったんだろ」
「だからぁ。二人だけがいいって子だっているだろ? あの子、あれでも純情なの」
「俺だってそうだけど?」
「は? あんたがぁ?」
 レンがけたけたと笑い声を立て、サクは少々むっとした。
 有無を言わせずレンの腕を掴み、近くにあった廃屋に入り込む。
「お、おい。ちょっと、何?」
 引っ張られるままについてきたレンを、サクは振り返った。
「時間ないんだから。さっさとしろよ」
 扉もついていない小さな建物の、いちおう外からはすぐには見えない物陰で、サクはレンの首に腕をからめて強引に口付けた。
「んっ……」
 いきなり仕掛けてきたサクに、レンが驚いた顔をしながらも、すぐにそのキスの甘さにとろけてしまったように応えてくる。互いの背中に上着の上から腕を回し、ぴったりと密着しながら舌と唇をなぞり合った。
 そうしながらサクはレンの手を取って、自らの股間に導く。自分のそこが、あっという間に熱く固くなっているのが分かった。レンの大きな手が衣服の上からまさぐってきて、サクは思わず濡れた声を上げかけ、しかし扉すらない壁一枚を隔てたすぐ外には人通りがあることを思い出して飲み込む。
「あ、……っん」
 しかしレンのふれている箇所からたちまち痺れるような快感が爪先まで走り抜け、サクはすぐ後ろにあった壁に背をついた。
 なんとか声を飲み込もうとするが、声を上げたら誰かが入ってくるかもしれない、上げなくても誰かが覗き込んでくるかもしれないと、それを思うとぞくぞくと余計に刺激がハネ上がって、鳥肌が立った。
「……こんなん、純情なコがやらせる?」
 サクの背を壁に押し付け、その少し華奢な腰からベルトを外しながら、レンが意地悪いような含み笑いをして耳元に囁いた。耳朶を弾力のある熱い唇で嚙まれて、サクはひくっと震えた。
「そっ……んなの、どうだって、いい」
 既に完全に勃起しているペニスを引っ張り出され、そこに直接レンの大きく体温の高い掌が這ってくる。
 サクは喉をひきつらせ、必死で声を飲み込みながらレンの上腕につかまった。壁に寄りかかり、やっと身を支えながら、目を閉じてレンの愛撫を味わう。
 初めて抱き合ったときから、レンはサクがどこをどうされることに弱いのかを把握している。そこにレンの長い指が這い、淫らに巧みに刺激されて、サクの吐息が熱を帯び、本来白い目許がうっとりと赤みを増した。
「あ、ふ……っく……」
 声を抑えなければ、と思えば思うほど、頭の中と素肌の下が炙られるように熱くなる。まだ空気は冷たいにも関わらずサクのこめかみに汗が浮き、身を走る刺激に膝が震え始めた。
「あっ……ぁ、やっ」
 次第に追い詰められてゆくサクが、それでも必死で声を殺してすがり付いてくる様子に、レンの青い瞳が愉しそうにきらめいた。
「やだってさぁ。仕掛けてきたの、そっちじゃん」
「だ、って……あんた、が、いたから……」
「俺がいたから? 俺がいたらしちゃうわけ?」
「あんただって、同じ、だろっ」
 思わずサクはレンを睨みつけながら、腕をその首に回して引き寄せ唇を重ねた。声が洩れないように、ことさら深く舌を差し込んで貪る。上昇する体温と脳髄の熱さに、寒さなど既にまったく感じなかった。
 サクは壁に向かって身体を裏返され、下半身の衣服を引き下ろされた。レンに後ろから抱きつかれ、身体の前と脚を開かされた後ろから、股間に手を這わされる。
「はッ……うっ……、ッ……」
 サクは必死で声を殺しながら、全身をわななかせ壁に上半身を押し付けるように立ち、なんとかくずおれそうな身体を支えた。
 密着するレンの体温と呼吸を感じながら、股間を弄られながら、首筋や耳元にも舌と唇を這わされる。もうすっかりひくついて熱い後ろの小さな窄まりにレンの長い指が侵入してくると、サクは自分で自分の手を嚙んで、上がりそうになる声をなんとか抑え込んだ。
「ん、ん……ふ、ぅ……っ……ッ」
 熱いペニスからとめどなく滴るぬめりを絡め、ぬちゃぬちゃと湿った音を立てながら、レンの指が狭い中を掻き回している。ひどく熱く敏感なペニスと身体の奥とを同時に愛撫されて、サクの神経の末端にまで震えるような気持ちの良さが燃え広がった。
「んッ……ん!」
 ふいに嚙んでいた手を外されて、かわりにハンカチらしき布切れを口に押し込まれた。サクはそれを噛み締めて、喉から上がりかける嬌声を押さえつけた。
 汗なのか快楽のあまりの涙なのか分からない雫が頬から顎先を伝い落ち、今にも膝が崩れそうになったところに、ぐいと腰を掴まれた。レンの固く熱い滾りが、サクの後ろを割って体内にめり込まされてくる。サクは壁にすがりついたまま、大きく背を反らせて、その強烈な刺激に痙攣した。
 いやらしさにますます頭が煮えるような湿った音を伴って、後ろからの抽挿が始まった。張り詰めたペニスを扱いてくる手も止まらず、腰から全身を駆け巡る激しい快感に、頭がちかちかしてショートしそうだった。
 こすれあう粘膜とそれを直接通して伝わる脈動と、後ろから覆いかぶさってくる体温と、熱く乱れた息遣い。そのすべてが、信じられないほど気持ちが良い。自然にもっと奥に、もっと感じる場所にレンを導くように腰を揺らし、火傷しそうに熱いその滾りを締め付けていた。
 ​​​──もうずっとこうしていたい。
 ほかのことは何も考えたくない。ひどく幸福なような、そのくせ泣き出してしまいたいような感覚が、真っ白になりそうなサクを支配する。
 ずっとこうしていられたらどんなにいいだろうと思ったとき、限界を迎えた身体が強烈な絶頂感に飲み込まれた。と同時に、自分の奥でレンもまた弾けるのを感じ、背中から折れるのではないかと思うほど強く抱き締められた。
 ああ、いいもんだな。
 抱き締めてくる力は痛いほどだったが、そんなことを思った。一方的にではなく互いに快楽に浸って同時に達して、その瞬間に抱き締められること。身体が一つになっていると実感できるその行為が、こんなに心地良いものだなんて知らなかった。
 達したそのまま脱力して、ずるずると崩れそうになった身体を、後ろからレンが抱きとめて支えた。
「やっぱ、あんた、めっちゃ、きもちい……」
 口から嚙まされていたハンカチを外され、サクがぐったりしたまま思わず言うと、レンが笑う声が耳に入った。そしてそのまま、また後ろからサクは抱き締められた。
「俺も。つーか、あんたエロすぎてマジやべぇって。あんたってなんなの?」
「なんなの、って……何が」
「だってあんたみたいのさ。フツーじゃねぇだろ」
 笑いながら言っているレンに、サクはすっと胸の奥が冷めていく心地がした。
 何なのだろう、自分は。そんなもの、一つしか思いつかない。
 抱き締められたまま、サクはレンを振り向いた。唇に薄い笑みを浮かべながら。
「生きた大人のオモチャだよ。俺は」


 久し振りに、アリサに滅茶苦茶にされた。いや、普段からかなり滅茶苦茶にされているが、肌が裂けて血が流れるほどの責めは最近はされていなかった。どうやらサクが最近しばしば街に出て「特定の誰か」と遊んでいることが、アリサの気に入らなかったらしい。
 相手は誰なのかと問い詰められ、黙っていたらむしろレンに危害が及ぶと感じたサクは、問われたことに答えた。サクが従順にしていれば、サクで満足できていれば、アリサもわざわざそのあたりの野良犬にまでは手を出さないだろう。
 土下座して許しを乞うたサクに、とりあえずアリサは満足したらしく、そこでレンの話は終わった。そのかわりのように、サクは後ろにバイブを突っ込まれたまま吊るされて、棘のついたバラ鞭で打たれ、傷つき血を流す肌に蝋を垂らされるということを何度も繰り返された。
 催淫剤を飲まされた身体は異様に昂ぶって、激しい苦痛と悦楽にサクは何がなんだか分からなくなった。その間ずっとペニスは根元を縛り付けられたままで、責めが終わったようやく最後に、アリサに蔑まれながら達することを許された。
 手当てをされ、栄養剤と薬を飲まされてベッドに横にさせられたが、翌日になってアリサが出かけてしまうと、サクはすぐにベッドから這い出した。
 包帯で上半身はぐるぐる巻きにされ、動きづらい上に、泣きたいほどひきつれるように痛んだ。手ひどく責められていた身体は休息を欲して明らかに高熱を発しており、今にも倒れてしまいそうだった。
 それでも、ここにいたくなかった。
 もうおかしな催淫剤の効果も消えて、押し寄せてくるのは身体の痛みと、言葉にならないほどの、頭が破裂しそうな悔しさと惨めさだった。そしてそれらの中に、レンを巻き込まずに済んで良かったという、滲むような安堵感があった。
 ……いつまで、こんなことが続くんだろう。
 熱にうかされた頭でぼんやり思ったとき、ふいに吐き気がこみ上げてきた。あんなことで快楽を得る自分に。いつもいつも、アリサにみっともなくすがりついて、咽び泣きながら絶頂を乞う自分に。
 ただサクが泣き叫ぶのを見たいだけの相手にいいように弄ばれて、踏みにじられて、それでも意思も尊厳もプライドもなく醜い快楽に支配される。それが当たり前になっていたし、当たり前だと思っていた。肉欲も快楽もそんなものだと。身体にしか取り得のない自分なんて、そんなものだと思っていた。
 でもそれなら、レンに抱かれて感じる快楽は、なぜあれほど甘くて痺れるほどに心地良いのだろう。
 薬も道具も何もない、ただ互いにふれあって、互いの身体だけで感じ合う行為。そうでありながら、アリサのところで感じる快楽よりもそれははるかに深くて、指先までもを心地良く満たす。
 肉欲も快楽も、どろどろと暗く醜悪なものとしか、今までは思っていなかった。でもレンとのそれには、そんなものは感じない。むしろ澱んで穢れた自分が、レンに触れられて達するごとに洗い流されてゆく気さえする。
 何だろうこれは、と考えたが、頭が熱くてくらくらして、うまく働かなかった。
 ただ、会いたい、と思った。
 こんな澱んで醜くて穢らわしくて、でもどうにもならないでもがいていることも、あの馬鹿のように明るい綺麗な青い瞳を見ていると、いっときだけでも忘れていられる。助けてくれなんて言わない。ただ忘れさせてほしい。あの綺麗で明るい瞳と顔が見たい。会いたい。
 ふらつきながらサクはアリサのビルを脱け出し、レンの部屋を目指して歩き始めていた。

        ◇

 レンに好きだと言われた。あまりにあっさりと。
 あっさりすぎて、最初は聞き流していた。どうせ馬鹿みたいに軽いこいつのことだから、誰にでも言っているのだろうし、食べ物や飲み物に対して好きだというようなものだろうとしか思わなかった。
 だいたい、こんな自分を本気で好きだと思う奇特な人間がいるわけがない。
「だーっからぁ。俺けっこー、てか相当マジなんだけど?」
 いつものように明るい殺風景な部屋、大きな窓辺に置かれたベッドの上で、煙草に火をつけながらレンが言った。
 終わった後、レンはまず必ず煙草を吸う。食事の後に一服する奴は多いが、要は食事もセックスも同じことなのかと、それを眺めながらサクは考える。煙草は吸わないサクには、その感覚がよくわからない。
「おまえってマジ軽いよな」
 その様子を眺めながらサクが言うと、レンは見るからに不満そうな顔をした。
「えー。んなことねーよ?」
「淫乱だし変態だし馬鹿だしさ。それでその歳までよく生きてこれたよな」
「ひっでぇ言われよう」
 あまりずけずけと言われて逆に面白くなったのか、レンが笑い出した。こいつが不機嫌そうにしているところを本当に見たことがないな、と、サクは不思議なものを見る目でレンを眺める。
 少し前、ふとしたことで無性に苛ついて強引に咥えさせ、相当手荒くしたことがあったが、そのときでさえレンから朗らかさが失せていたのはほんの少しの間だった。乱暴な扱いに慣れておらず、また好まないレンのことだから、相当きつかっただろうし不快でもあっただろうに。いったいサクの何がそんなに良いのか知らないが、怒りもせずにサクを抱き締めて、あれからも繰り返し好きだと言ってくる。
 澄んだ青空のような瞳はいつでもサクを正面から見返して、そこには恐れ気も追従も無い。サクがカズヤをどうやって殺したのかを知っていてさえ、そこにある表情は何も変わらない。
 こいつはよっぽどの馬鹿なんだろう、とサクは思う。頭の中が完全に花畑で、どこかが致命的にズレていておかしいのだ。あんなふうにカズヤを殺した自分を恐れる連中の方がまともなのだ、ということくらい、サクは分かっていた。
 考えながら、サクは身を乗り出して、レンに軽くキスをした。
「ん」
 レンがぱちぱちと瞬いて見返してくる。
「おまえは馬鹿だよ」
 なぜ、こんな自分を好きだと言うのだろう。こんなにもレンは明るくて澄んでいて、穢れて澱んだ醜い自分とは違うのに。レンに対して、自分が何をしているとも思えないのに。レンと自分の間に何かがあるとすれば、それは身体の快楽だけではないか。
 確かにレンとのそれは溺れるほど気持ちが良くて、アリサのところで感じるものとはまるで違うけれど。レンといると無性にほっとするし、その綺麗な青い瞳をずっと見ていたい、と思うけれど。
 でもそれはサクが勝手に感じていることで、レンには関係がない。これ以上レンに近付いてはいけない、とも思う。レンと自分はあまりに違いすぎる。今はレンも物珍しさで絡んでくるだけで、いつかきっとサクに幻滅するのだろうから。
 レンは煙草を咥え、煙をサクとは逆方向に吐き出して、にんまりと笑った。
「馬鹿の方が楽しいぜ、いろいろ? おまえみたいになんでもややこしく考えてもしゃーないだろ」
 意外なことを言われて、サクはむっと頬を膨らませた。
「ややこしくなんてしてない」
「深く考えすぎなんだって。まぁそーいうトコも好きだけどさ」
「おまえは単純すぎるんだよ」
「んー。まぁ否定はしねーけど」
 短くなった煙草を灰皿で揉み消して、レンはサクをぎゅっと抱き寄せた。レンの少し高めの体温と、抱き締めてくる素肌の腕とふれている胸板の感触が心地良くて、サクは黙って目を閉じた。
 ……身体だけでも、こんなに心地良いなら、幻滅されるまではこうしていてもいいかな。だって、こんなにほっとする。ずっとあれこれ考え詰めに考えて、アリサに好き放題にされ続けて、少し疲れちゃった。
 そっか。俺、疲れてるんだ。
 自分でふいにそれに気が付いて、サクはおかしくなって少しだけ笑った。
 いきなり廃都で生きることになったあのときから、こんなふうに安心して息を吐いたことなんてなかった。少しくらい良いだろう。どうせ今だけなんだから。少しくらいこうしていても。

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