妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (三)

露店の主──源爺と葵に呼ばれた老爺は、ひとしきり号泣すると、こうしてはいられないとばかりに露店を片付け、二人を自身が住まう家へと案内した。  夜光には葵と老爺との関係は分からなかったが、葵を「若」と呼び、葵もまた「源爺」と呼んだそこに、察す...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (二)

この人里は、街道沿いから少し入った先の、連なる山嶺の裾野にあった。山を下ってくる豊かな清流から水を引き、あたりには広々とした農耕地が広がっている。  なんでも昔、たいそう桜好きな領主がいたそうで、里の随所に桜が植えられている。あの高台の御堂...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (一)

境内の長い古びた石段を登っていくうち、少し眠たげな色の青空に、風に巻き上げられた桜の花びらが舞った。 「あ」  頭からかぶった白い被衣(かつぎ)を押さえながら、夜光はそれを目で追いかける。残りわずかだった石段を登りきった先で、その色の淡い唇...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (五) -完結-

「葵……」  夜光が呼びかけると、首を上げて空を仰いだ葵が、ふう、とひとつ息を吐いた。ゆっくりと立ち上がり、夜光を振り返る。  夜光と視線を重ねたそのときには、葵はもう、いつもの柔らかな表情に戻っていた。 「大丈夫か、夜光」  少し離れた場...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (四)

「あのとき私は、間違い無く、あなたの想い人を利用して命を奪いました。……あの御仁はマレビトでしたから。急に所在が知れなくなっても、そう騒ぐ者もいないだろうと……思ったのです」  冷たい雨の中に座り込んだまま、懺悔するように夜光は言った。  ...