妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (二)

峠近くの小さな滝のそばで休んでから、ふたりは山路を下り始めた。  山麓には、さしあたっての目的地である人里がある。  だがそこに到るよりも先に、二人はまたしても山路で妖に襲われた。木立の間から急に飛び出してきたから、はっきりと視認できたわけ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (一)

葵(あおい)の上背ほどの高さの小さな滝の水は、この間までは蝉の声が聞こえていたというのに、もう痛いほど冷たかった。  ささやかな滝壺は澄み切って、そこに棲む小さな生き物たちの銀色の背を、波紋の下に覗かせている。  右の前腕に走った引っ掻き傷...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

肩にいるもの

新吉(しんきち)は、旅をしながら様々なものを売る。  通りすがった集落で、草履や笠、ちょっとした小物や日用品、装飾品などを仕入れ、すれ違う旅人相手や違う集落で売ったりする。道すがらの野山になっている季節の果実や薬草、川原で拾った綺麗めな石な...
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闇迷いの辻

あたしは悪くないわ。  と、かや(・・)は思った。  もう秋口の夜気は、すり切れたぺらぺらの着物一枚の身には随分と冷たい。直接に土を踏んで汚れている素足は、すっかり凍えている。  それなのに寒さを感じないのは、自分で思う以上に動転しているせ...