氷雨に訪う

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (五) -完結-

「葵……」  夜光が呼びかけると、首を上げて空を仰いだ葵が、ふう、とひとつ息を吐いた。ゆっくりと立ち上がり、夜光を振り返る。  夜光と視線を重ねたそのときには、葵はもう、いつもの柔らかな表情に戻っていた。 「大丈夫か、夜光」  少し離れた場...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (四)

「あのとき私は、間違い無く、あなたの想い人を利用して命を奪いました。……あの御仁はマレビトでしたから。急に所在が知れなくなっても、そう騒ぐ者もいないだろうと……思ったのです」  冷たい雨の中に座り込んだまま、懺悔するように夜光は言った。  ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (三)

切り拓かれていない森は、鬱蒼と深かった。まして夜の闇の中、さらに雨で視界が悪い。  深い闇を抱く樹木の間は、どこもかしこも同じに見える。細い獣道は通っているが、ごつごつとした木の根が足元を這っていて、進む方角よりも足場に注意しなければならな...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (二)

それからしばらく経ち、多少雨足は弱まったが、一向に降り止む気配は無かった。  今日は早々から悪天候に見舞われた中を歩いてきた疲れもあり、単調な雨音を聞いているうちに、夜光と葵はいつのまにか眠ってしまっていた。  どれくらいそうしていたのだろ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (一)

人と妖。私達は確かに、生まれながらに種として異なっている。だけれど誰かを愛し、欲する心は、人であろうと妖であろうと、そう違(たが)わぬはずだ。だからどうか、私を信じてほしい。私と一緒になってくれないだろうか──蓮華(れんか)。  そういって...