その他 曲夢 (七) 青々とした稲が白く可愛らしい花を咲かせる頃に、盂蘭盆会は催される。そしてそれを境に、夏から秋へと、季節はゆっくり移ろい始める。 この後に大きな秋祭りが控えているため、里での盂蘭盆会は控えめだ。麻幹(おがら)や麦に小さな火を灯し、各自の軒先や... 2025.10.16 その他六花咲きて巡り来る妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編
六花咲きて巡り来る 幕間 ─ 夕闇 ─ 夕凪を蜩の声が震わせる中、葵は寺の裏庭にある井戸で水を汲んでいた。 下手をしたら物の怪でも出そうなほど、寺は半ば廃墟じみた有り様だが、幸いなことに井戸水は澄んでいる。今の夜光の状態を考えると、冷たい清水を豊富に使えるのはありがたかった。 あ... 2025.10.13 六花咲きて巡り来る妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編
六花咲きて巡り来る 曲夢 (六) 次にまた会ったら、差し違えてでも、と思っていたのに。 小夜香は目の前の槐を眺めながら考える。だが、こちらを害する気配がないもの相手に武器を抜くことには、本能から躊躇いが生じる。害を為さないのであれば、歓待などはしてやらぬが、少なくとも無闇に... 2025.10.13 六花咲きて巡り来る妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編
六花咲きて巡り来る 曲夢 (五) それからしばらくは、何事もなく平穏に過ぎた。 社周辺や禊場に注連縄が増やされ、侵入者や害獣対策である里周りの鳴子も増強されたが、幸いにして変事のひとつも生じていない。 あの禊場での出来事を思い出すと、今でも若干腹が立ったが、腹が立つこと自体... 2025.10.13 六花咲きて巡り来る妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編
六花咲きて巡り来る 幕間 ─ 曲夢 ─ それは不思議な感覚だった。 そこにいるのに、そこにいない。澄んだ水面や、蝉時雨の降る木陰や、見知らぬ軒下、初めて見る部屋の片隅。ふと気が付いたら、そういったところに佇んでいるようで、けれど手足の感覚がない。そもそも、「自分の姿」というものが... 2025.10.10 六花咲きて巡り来る妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編