妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (二)

この人里は、街道沿いから少し入った先の、連なる山嶺の裾野にあった。山を下ってくる豊かな清流から水を引き、あたりには広々とした農耕地が広がっている。  なんでも昔、たいそう桜好きな領主がいたそうで、里の随所に桜が植えられている。あの高台の御堂...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

花衣に眠る (一)

境内の長い古びた石段を登っていくうち、少し眠たげな色の青空に、風に巻き上げられた桜の花びらが舞った。 「あ……」  頭からかぶった白い被衣(かつぎ)を押さえながら、夜光はそれを目で追いかける。残りわずかだった石段を登りきった先で、その色の淡...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (五) -完結-

「葵……」  夜光が呼びかけると、首を上げて空を仰いだ葵が、ふう、とひとつ息を吐いた。ゆっくりと立ち上がり、夜光を振り返る。  夜光と視線を重ねたそのときには、葵はもう、いつもの柔らかな表情に戻っていた。 「大丈夫か、夜光」  少し離れた場...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (四)

「あのとき私は、間違い無く、あなたの想い人を利用して命を奪いました。……あの御仁はマレビトでしたから。急に所在が知れなくなっても、そう騒ぐ者もいないだろうと……思ったのです」  冷たい雨の中に座り込んだまま、懺悔するように夜光は言った。  ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (三)

切り拓かれていない森は、鬱蒼と深かった。まして夜の闇の中、さらに雨で視界が悪い。  深い闇を抱く樹木の間は、どこもかしこも同じに見える。細い獣道は通っているが、ごつごつとした木の根が足元を這っていて、進む方角よりも足場に注意しなければならな...