朔の章 第一のパンドラ(5)

 その部屋の隣にはシャワールームがあり、サクはそこに連れ込まれた。
 温水などというしゃれたものは廃都にはないらしい。朦朧としかかったままシャツとズボンと下着を剥ぎ取られ、頭からいきなり冷水のシャワーを浴びせられて、サクは文字通り飛び上がりそうになった。この季節、まだ夜は涼しく、冷水をそのまま浴びるには寒い。
「なにすっ……んだよ!」
 かえってその冷たさで目が覚めたものの、自分が一糸まとわぬ姿であることに、今さら羞恥心がこみ上げた。どうにもならず放ってしまい、かつてない快楽に意識が混濁しかかっていたとはいえ、なすがままに衣服を剥がれたことに怒りと悔しさがわいてくる。
 そしてこの男の目の前で、いくらあやしげな薬の効果とはいえ悶え、足で踏みつけられて達してしまったことが、逃げ出したいほどの恥ずかしさとなって押し寄せてきた。冷水を浴びせられているにも拘わらず、羞恥に全身から耳まで赤く染まる。
 そこにいてシャワーをサクに浴びせているカズヤは、濡れるのも構わず服を着たままであることが、さらに恥ずかしさを煽った。カズヤが何か言えばまだいいのに、何も言わず、ろくに表情も変えず、ただそうしている。
 じっと観察されているようなその眼差しは、まるで人間扱いされていないような錯覚をサクに起こさせた。いや、それが本当に錯覚であるのかすら、もはやサクには自信がない。
 そして一時的な意識の混濁と冷水の感触とに一瞬鎮まりかけていた身体の熱が、じきにまた高まり始めていた。素肌に冷たい水を浴びせられ、無数の生傷に水が染みて泣きたいほど痛いのに、それを上回る熱が身体の芯からまた突き上げてくる。
「……う、く、……」
 思わずよろめき、薄汚れたコンクリートの壁に手をついて、なんとか身体を支える。
 得体の知れない薬の効果は、あまりにてきめんだった。表皮に触れる水の冷たさが、熱く堪えがたく火照り始めた身体に、逆にこの上なく心地よい刺激になる。
 もはや自分がカズヤからどう見えているのかを考える余裕すらなく、サクは壁に手をついたまま乱れた呼吸を繰り返す。見るまでもなく、自分のペニスが大きく膨れて下腹部に当たるほど反りかえっているのが分かった。一度とろけてしまった身体はあまりに快楽に素直で貪欲で、今度はもう自慰したい衝動を抑え切れる自信が持てなかった。
 しかし今度は、サクは堪える必要がなかった。いきなりカズヤがサクを後ろから抱き締め、その片手が無遠慮にサクのいきり勃った陰茎を握り締めた。
「ひっ!!」
 サクの喉から悲鳴とたがわぬ声が上がった。いきなり与えられた強烈な刺激に身体が仰け反り、震える。
 カズヤの手を離れたシャワーは、水を出しっぱなしにしたままタイルに転がった。サクを抱き締め、その熱いものをゆっくりと扱きながら、カズヤがサクの首筋に舌を這わせた。ビクリとサクの身体がさらに震え、たまらないように身をくねらせた。
 熱くなった陰茎を揉みしだく長い指の動きは卑猥であまりに手馴れており、全身に鳥肌が立った。さらに生暖かい舌が、首筋といわずうなじといわず耳朶といわず、遠慮のかけらもなくねっとりと這い回る。がくがくと自分の身体が震えるのを、サクは止められなかった。
「う、あ、やめ……はッ……あ……」
 こんなのは嫌だ、とどこかに残った理性が叫んでいるのに、もうどうにも燃え上がった身体を止めることができない。いつの間にかサクは背後のカズヤにすっかり身を預け、完全に凭れ掛かっていた。
「ひッ」
 カズヤの空いていた指先が、つうっとサクのなめらかな脇腹を撫でた。与えられた刺激に綺麗な腹筋がきゅっと引き締まり、臀部までが震える。サクが身体を撫でられることに弱いと気付いたカズヤの指先が、脇腹から腹部、胸板に到るまでを、嬲るように伝い始めた。
 そのあやしい身震いするような刺激に、サクは大きく喉を仰け反らせて喘ぐ。その間にもカズヤのもう片方の手は、サクのはち切れんばかりに膨らんだペニスを、達させないように加減しながら強く弱くいたぶり続けている。
 理性がとろけて、なんとか身体を支えている膝がもう崩れてしまいそうだった。浮かんだ汗を舐め取るようにちろちろとカズヤの舌先がサクの首筋を這い、上半身を撫で回していた指がすっかり硬く尖っていた乳首を軽くなぞった。ぞくりと堪らない快感が走り抜け、サクの喉がまた大きく仰け反った。
 今までもセックスをしたことならある、だがこんなふうにいいように誰かに一方的に身体を弄ばれた経験などない。こんなふうに声を抑え切れずに悶えてしまうことも、一度も経験したことはない。
 このすべてはあの妙な薬のせいなのだと思いたかった。だがそうであったとしても、カズヤの目の前でみっともなく喘いで、他ならぬそのカズヤの手に嬲られて快楽にうち震える姿を晒しているのは事実であり、それは涙が出るほどの屈辱感を胸に刻み込んだ。
「ん、うっ」
 喘ぎ続けるその口に、いきなりカズヤが指を突っ込んできた。口の中の粘膜を長い指がいいようにこすり上げ、まるで口内を犯されているような錯覚を呼び起こす。
「舐めろ」
 耳元でカズヤの低い声がした。瞬間ペニスを強く扱かれ、サクの背がビクリと震えた。
「う、……んっ……う」
 もう逆らう気力もなく、言われるがままに舌を動かして、口内に押し込まれたカズヤの指を舐め始める。カズヤが指をいくらか引き出したので少し楽になった。指の一本ずつを、唾液をからめて舐め上げてゆくのにあわせるように、サクのペニスに与えられる刺激が強くなってゆく。
「……っう、あ、は……ッ」
 今にも達してしまいそうだ。口の中の指を吐き出して、サクは喘いだ。
 サクを弄ぶカズヤの指はサク自身からあふれだした先走りをねっとりとまといつかせ、その反応を確かめるように熱く勃った陰茎を扱き続けている。サクの呼吸がどんどん切迫してゆく。背筋が締まり、限界を示すようにその身体が大きく震えた。
 だが達すると思われたその瞬間、ペニスの根元をこれでもかというほど強く握り締められた。
「ッあああっ!!」
 思わぬ刺激に、サクはまさに身体を跳ね上げて悲鳴を上げた。物理的に絶頂を阻害された身体は混乱し、いっそう心拍数が跳ね上がってガクガクと震えた。
「俺の前でイきたくないんだろう?」
 その耳元に、囁くようにカズヤが声を忍び込ませた。
「安心しろ。イかせないから」
 喉の奥で笑うカズヤを、荒く熱い呼吸を吐きぐったりとその胸にもたれたまま、サクは愕然として見上げた。冷え切った視線と、楽しそうに笑み歪んでいるその口元に、サクは目を見開く。
 ……この男は。
 絶望的な思いで見上げるサクを、カズヤは突き飛ばすように押してシャワールームから外に出した。


 ぐったりしながらも猛烈に燃え上がった身体を持て余すサクを広めのベッドに連れて行くと、カズヤはそこでサクの両手首を合わせて拘束した。
 さらに脚を大きく開かせ、その足首もロープを使ってベッドの支柱にそれぞれ縛りつける。もはや抵抗らしい抵抗もできず、サクはカズヤの為すがままになるしかなかった。
 サクが身動きできなくなったところで、カズヤは可哀想なほどに腫れ上がっているそのペニスの根元を布の紐できつく縛り上げた。サクは背を仰け反らせて全身を震わせた。限界まで張り詰めたそれを縛り上げられることは、ズンと響くような重くたまらない歯がゆさと疼きと鈍痛をもたらし、それは悲鳴を上げたいほど苦しかった。
 身動きもままならなくなったサクの先走りにまみれたペニスに、カズヤはためらいもなく舌を這わせた。裏筋を舌先でくすぐり、竿をねぶるように舐め上げ、鈴口に尖らせた舌をねじ込む。ペニスの先を口に含んでカリをきゅっと唇で締め付け、唾液をたっぷりまぶして亀頭を口内で舐め回す。
 そうしながら、サクの身体のいたるところについたナイフによる切り傷や擦り傷を、カズヤは爪の先を立てて抉った。
 同時に与えられる快感と苦痛とに、サクは次第にわけが分からなくなり、しまいには狂ったように泣き叫んでいた。理性がぐずぐずに溶け崩れ、身体に与えられる感覚だけがすべてになってゆく。間断なく酸素を求めて激しく上下する胸板は汗でべっとりと濡れ、その熱に浮かされたような顔もまた、止まらない涙と汗にびっしょりと濡れた。
 やがて頃合と見たカズヤが、サクの汗で額に張り付いた黒髪を指でかきやり、その瞳を覗き込んだ。
「いかせてほしいか?」
 焦点がほとんど合わなくなっているサクの頬を掴み、その耳に舌を這わせる。ひっ、とサクが弱々しく悲鳴を上げた。そうしながらも、なんとかカズヤの言葉の意味を理解し、かくかくと頷いた。
「じゃあ、いかせて下さいっておねだりしろよ」
 キスしそうなほどの間近から、低い声でカズヤが囁いた。
 自分を覗き込んでくるその蠱惑的で残酷で美しい瞳に、サクの背筋をゾクリと悪寒めいた感覚が貫いた。それはもはや理屈ではなかった。
「……い、かせて……ください……」
 しゃくりあげながら、やっとサクはそう言った。限界などもうとっくに超えていた。
 さんざんに弄ばれ続けた身体は、もう自分で動かすことすらままならない。灼けつくほどに熱い全身の中で、さらに火がついたように身体の中心にあるペニスが熱い。これを解放してもらえなかったら、もう自分はどうにかなってしまう。
 カズヤの唇がサクの唇に覆いかぶさった。今までの扱いが嘘のように甘く唇をたどり、舌に舌を絡めて優しく愛撫する。
 サクの涙で濡れた瞼にキスをして、カズヤはその唇をもう一度舐めた。そうしながら、片手でサクのペニスを戒めていた紐を器用に緩めた。
 緩められただけでサクの腰が震え、大きく跳ね上がったかと思うと一気に達していた。あまりに凄まじい快感に声すら上げられず、意識が瞬間に粉々に吹き飛んだ。

 ぐったりと気を失ってしまったサクの足首の拘束を解くと、カズヤはその身体を無造作に裏返した。
 そばのサイドボードにおいてあったローションを取り、自らのジーンズの前をはだけて、すっかり勃ち上がっているペニスにそれを塗りたくる。そして気を失っているサクの尻にも振りかけた。サクのそこは日に焼けた手脚に比べてずっと色が白く、少女のそれのようになめらかで手触りが良かった。
 サクの脚を引きつけ、広げさせて尻の肉を左右に寄せると、何一つ開発されていない穴があらわになった。ローションまみれの指を、カズヤは無造作にそこに突っ込む。
 その感触に、ぐったりと意識を失っていたサクが、わずかに眉を揺らした。しかしよほど深く意識が落ちているのか、完全な覚醒には至らない。
 慣らすように何度かカズヤはサクの体内に指を行き来させ、その入り口の肉をやわらげた。そして適当なところで、そこの中心に彼自身をあてがった。

 いきなり襲ってきた衝撃に、サクは殴られたように意識を取り戻した。
「ッあ……あ、ッツ……ああぁあッ!」
 後ろから身体が割り裂かれるような、凄まじい激痛が襲ってくる。何が起きているのか理解するのに時間がかかった。抑えようもなく喉から悲鳴が飛び出て、全身が引きつって脂汗がどっと浮かぶ。
「あ、あ、あ……ッあ……ぐ……」
 あまりの痛みにすぐに分からなかったが、自分の後ろにカズヤがいた。その手がしっかりとサクの腰を掴み、信じられないことに、本当に信じられないことに、サクのアヌスにカズヤ自身を押し込んでいる。
 ひどく熱い感触は、自分の肉が熱いのか、それとも突っ込まれたペニスが熱いのか、その区別さえつかなかった。ただ全身を貫く激痛に口をぱくぱくと喘がせ、手脚を震わせて弱々しく呻くことしかできない。
 束の間とはいえ意識を失ったことが、サクの中に理性と思考力をいくらかよみがえらせていた。そこにいきなり襲い掛かってきた衝撃は、悪夢としか言いようがなかった。
 たまらずもがいて逃れようとしたが、頭髪を掴まれて乱暴に頭をベッドに押し付けられた。
 自分の中に他人のモノがある、自分が男に犯されている、その事実を理解し受け入れるのはあまりにも困難で堪え難かった。男のモノが身体を割り裂いて抜き挿しされる感触があまりにおぞましく苦しくて、必死でシーツを掴んで堪える目に涙が滲んだ。
 ろくに息もつけない苦しみの時間は、やがて唐突に終わった。サクが呻くのにまったく構わず好きなように動いたカズヤは、いかにも作業的に達すると、突き放すようにサクを解放した。
 ペニスが抜かれた後も痛みがまったくおさまらず、サクは震えながらベッドの上で喘いだ。
 今度こそもう、指一本動かせなかった。その手首の戒めがほどかれる。
「金と力がないなら、別のもんで生きていくしかないぜ。ワンちゃんよ」
 蒼白になり、もう瞼を開けることもできないその耳元に、カズヤが身を寄せて、ぞっとするほど優しい声で語りかけた。
「まあ、約束だからな。水と食い物は恵んでやる。動けるようになったらさっさと出て行け。あばよ」
 最後にサクの耳朶をべろりと舐め、機械的にビクリとその身体が反応したのを面白そうに眺めると、カズヤは部屋を出て行った。
 それを見届けることもできず、墜落するようにサクは意識を失った。

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