メビウスの蛇

メビウスの蛇

四章 神の死 (1)

母は、凍てついた薔薇のように美しい人だった。  常に最高級のドレスと宝石と装飾品に囲まれ、誰よりも気高く飾られていたが、それらの何よりも母自身の立ち居振る舞いや容姿が美しかった。  たとえ母が、こちらに対して距離を置き、僅かに微笑むことすら...
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三章 赤い涙 (5)

気を失っていたのは、ほんの短い時間だった。ユアンがうっすらと意識を取り戻したとき、絨毯の上に転がされたまま、唇に唇を重ねられていた。深く挿し込まれた舌がユアンの舌を攫い、吸い上げながらくねっている。 「う、……っ……」  フィロネルに口付け...
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三章 赤い涙 (4)

皇子の私室は、幾つもの部屋が連なっている。大きなテーブルが置かれソファが並べられている居室もあり、親しい相手などを個人的にこの部屋に迎えて歓談することもできるようだ。少なくともユアンがフィロネルに仕えるようになってからは、そんな光景はついぞ...
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三章 赤い涙 (3)

ユアンがフィンディアス皇宮で皇子の従者を勤め始めてから、既に三度月が変わっていた。日数でいえばまだ三ヶ月には若干満たないが、一切無駄のない日程を消化してゆくフィロネルに付き従ううちに、慌しくあっという間に時間は過ぎてゆく。  執務室で言い合...
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三章 赤い涙 (2)

どれほどユアンを苛んだ翌朝でも、フィロネルは決まった時間通りに起き出して一日の活動を開始する。それだけはユアンは感心するところであり、またどれだけ体力があるのかと呆れるところでもあった。  だが考えてみれば、フィロネルはあくまで自分のペース...