妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (二)

それからしばらく経ち、多少雨足は弱まったが、一向に降り止む気配は無かった。  今日は早々から悪天候に見舞われた中を歩いてきた疲れもあり、単調な雨音を聞いているうちに、夜光と葵はいつのまにか眠ってしまっていた。  どれくらいそうしていたのだろ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

氷雨に訪う (一)

人と妖。私達は確かに、生まれながらに種として異なっている。だけれど誰かを愛し、欲する心は、人であろうと妖であろうと、そう違(たが)わぬはずだ。だからどうか、私を信じてほしい。私と一緒になってくれないだろうか──蓮華(れんか)。  そういって...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十七) -完結-

日毎に寒さが増し、山の中には雪がちらつくことも増えた。  葵の全身の傷は順調に癒えていったが、一度完全に切断されてしまった左腕だけは、さすがになかなか包帯と固定が取れなかった。とにかく感覚が通わず、自分の腕というよりも、ぶら下がった重いモノ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十六)

どうやら三昼夜の間、葵はひどい高熱を発していて、意識が戻らないか、戻っても混濁していたらしい。  まだ頭がぼんやりとして全身気怠く、感覚もどこか曖昧だったが、熱がひいたせいかそこまでつらくはなかった。動かずにいる限り、身体もそれほど痛まない...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十五)

それまでの緊迫感などまるで無視した涼しい風情でそこに立つ槐に、闇蜘蛛は注意深く伺うように、ざわざわと脚を蠢かせた。  槐は葵をそのままに、散歩でもしているような足取りで、数歩を進み出る。すると驚いたことに、闇蜘蛛がそのぶん退いた。  なんと...