妖は宵闇に夢を見つ

妖は宵闇に夢を見つ

二章 月の魔性 (六)

夕闇が終の涯の上に舞い降り、赤い櫓門を越えた先に広がる歓楽街を、ひときわ華のある賑わいに満たしてゆく。  あらゆる軒先に色とりどりの吊燈籠や提灯がずらりと灯り、出店や屋台も増える。妖の習性として、昼間よりも日が落ちてからの方が活発になるから...
妖は宵闇に夢を見つ

二章 月の魔性 (五)

翌日、長く間借りしていた夜光の部屋から寝具や行李を運び出した。といっても、葵が持ち上げようとしたのを夜光が制し、開け放った障子から通りがかりにそれを見た仲居がさらに夜光を制し、ひょいとあっさり持ち上げて、移動先の部屋まで運んでくれたのだが。...
妖は宵闇に夢を見つ

二章 月の魔性 (四)

幸いそこまで傷が痛むことはなく、充分に寛いだ後、食事処を出た。店を出たところで、火月と水月がふわりと浮き上がり、葵と夜光を振り返った。 「それじゃあ、僕らはそろそろこれで」 「葵、あんまり無理しちゃダメだよ。まだ本調子じゃないんだから」 「...
妖は宵闇に夢を見つ

二章 月の魔性 (三)

華陽山は今の季節、山全体が満開の桜に染まっている。山から吹く風に、花吹雪が船を巻き込んで空を舞う。近付いてくる桜色の山に、屋形船に乗り合わせた者達から歓声が上がった。  やがて何事もなく、船は船着き場に滑り込んだ。降りてゆく者達の歓声と花吹...
妖は宵闇に夢を見つ

二章 月の魔性 (二)

「あーおいー。やこうーっ。こっちこっちー」 「はやくぅ。遅いよぉー」  穏やかな青空の下、火月と水月が紅葉のような小さな手をいっぱいに振りながら、雑踏の中で声を上げる。  賑やかに妖達の行き交う大通りを、夜光と葵はそんな小鬼達の後について歩...