Farasha

Farasha

Farasha (5) -完結-

「アゲハ……」  目を瞠った慧生に、アゲハが慌てたように顔を隠し、シャツの袖でごしごしと目許をこすった。 「ご……ごめんなさい。大丈夫、です」  あまり大丈夫であるようには見えないアゲハを、慧生は目を瞠ったまま見つめていた。  ──こんなも...
Farasha

Farasha (4)

暗い窓は、風に煽られた水滴が硝子に当たる、ほんの微かな音を室内に這わせていた。  書斎として使っている部屋の中、木製のシンプルなデスクに向かって、慧生は何をするわけでもなく座り込んでいた。  美玲羽の受賞を知るなり無言で立ち上がり、書斎にこ...
Farasha

Farasha (3)

夢見心地に、いくつかの音が聞こえていた。何かは分からないが、日常的によく聞き覚えている類いの生活音。  それらの中に時折、しゃらんという涼やかで軽い金属的な音が混ざる。控えめで小さな物音に、煩わしさよりも心地良さと、どこか安堵感を覚える。 ...
Farasha

Farasha (2)

白い少年の掌が、ぽかんとしている慧生の上腕から肩に、ごく当たり前のように移動してくる。少年の小柄な身体つきそのままに、あまり大きくはない手。そして少女の手を思わせるほど繊細な指と、すべらかな手の甲。  邪気の欠片も見えない真紅の大きな瞳が、...
Farasha

Farasha (1)

冷たい夜を憂う貴方の為に、  僕は揺り籠の中で目を覚ます。  優しい水を離れた幼い僕は、  貴方という光と孤独を知る。  僕の灰色の世界を照らすのは、  唯ひとりの貴方の言葉。  貴方の綴るその言葉だけが、  僕の世界を彩る術を知っている。...