妖は宵闇に夢を見つ

春宵 番外編

春宵

 その小さな白い子に、長は「夜光」と名付けることにした。「降り積もる雪か、仄輝く月光か……おまえの髪は、本当に綺麗ですねぇ」 これはこの子用に、と用意してやった上物のつげの櫛で、長は丹念に乳白色の髪を梳くしけずってやる。あまり傷んでぼろぼろ...
月を想う 番外編

月を想う

 暗い夜空から、やわらかな雨が降っている。 普段は虹色の光彩がふわりとかかって見える終の涯の空も、さすがに星も見えないこんな夜は、ただ一面に墨を塗り込めたようだ。「まだやまないねェ。だいぶ弱くはなってるんだけど」「今夜中には上がるって、さと...
夕凪の庭 番外編

夕凪の庭

 夕暮れ刻になって、風がぴたりと止んだ。 淡い虹色を帯びる終の涯の空は、黄昏刻になると西の空一面が、えも言われぬ色彩に染まる。透き通る赤や紫、朱色や黄金が雲に反射する中、虹の極光が淡く強く西の空全体を覆う。 自室で荷物の整理をしていた夜光は...
夜明けまで 後日談

「夜明けまで」あとがき

「妖は宵闇に夢を見つ」の後日談として書き始めたこのお話。だいたい10万文字くらい、の予定を大幅に超過することはなく、どうにかやっと、完結させることができました。「一度死んだものが甦る」というのは、ファンタジーだからこそ許される展開だと思って...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (終)

「さて。呑もうか」 夜光と葵が部屋を出て行くと、槐が徐おもむろに言った。「おまえの積もる話というのは、それですか」 脇息に凭れたまま、長が呆れた息を吐く。「うむ。やることをやって清々せいせいしたからには、次にやることは当然呑むことだろう?」...