夜明けまで 後日談

夜明けまで 後日談

夜明けまで (十六)

同じ日の夜。ほぼ満月に近い、だがあとは細ってゆくばかりの十六夜が、天頂を間もなく通り過ぎる頃合。  長の住まう小御殿、月明かりに白い蕾が映える芙蓉の群れが傍らに広がる広廂にて。杯を手に、槐がくつくつと笑っていた。 「しかし、おまえも存外に子...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (十五)

「あ、あお……葵……」  熱く甘い口付けの継ぎ間に、夜光は何度も葵の名を呼んだ。そのうち深く唇をふさがれると、零れる涙をそのままに、夜光は葵の身体をただ強く抱き締めた。  半妖の夜光と人間の葵とでは、どうしても夜光の方が寿命が長い。避けよう...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (十四)

槐の漆黒の袖が翻り視界を覆った、と思ったら、次に目を開いたときには、夜光と葵は見覚えのある縁側に立っていた。最玉楼の裏手の一角にある、夜光の部屋の前だった。 「空の奴はああは言ったが」  槐は葵を見やり、縁側に差し込む月明かりの中、黒装束の...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (十三)

陵の言葉を聞き、気が逸るあまり最低限の挨拶だけをしてその場を駆け出してしまった夜光だったが、そこを苦笑まじりに長につかまえられた。  長に手をつかまれたと思ったら、足許がふわりと頼りなく浮く感覚がした。夜光は軽い眩暈に、思わず目を瞑った。 ...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (十二)

黙って陵の言葉を聞いていた夜光が、透ける紫の瞳を瞠った。その言葉の意味を夜光が受け止めて理解するには、しばらくの時間がかかった。 「贄となった者たちが、甦る……?」  その様子を、陵は深く魂魄まで見透かすように、ただじっと見つめた。  まさ...