妖は宵闇に夢を見つ

妖は宵闇に夢を見つ

二章 月の魔性 (一)

不可思議な力に律された終の涯では、妖や神々が荒ぶるでもしない限りは、大きく天候が崩れることは無い。とはいえ冬には積もる程に雪が降るし、それ以外の季節であれば、しとしとと雨も降る。  その日は朝から細い糸のような雨が降っていたが、昼前には上が...
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一章 終の涯(十)

おそらく命を絶つための匕首と共に、葵が消えた。  それを理解した夜光はすぐに部屋を飛び出し、名前を呼びながら探し回った。それを見た芸子の一人が、葵が長着姿で最玉楼を出て行くのを見かけた、と教えてくれた。 「いったいどこに……」  葵が出て行...
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一章 終の涯(九)

夜光が部屋に戻るより前のこと。  葵はあたりを通りがかった者に頼み、竹筒に入れた水と、簡素な長着を分けてもらった。傷に気を付けながら寝間着を着替え、朱色の長い髪を簡単に結わく。部屋の隅に置いてある櫃から、細長い錦の袋に入った匕首を取り出し、...
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一章 終の涯(八)

次第に身を起こしていられる時間が増えてきた葵は、むやみに歩き回らないことの代わりに、暇つぶしに書物を所望した。  蓬莱の文字と終の涯で使われている文字は似通っている部分も多く、何より文法が共通している。マレビトである葵は完全にはこちらの文字...
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一章 終の涯(七)

その姿がそこに現われただけで、あたりの空気が明るく華やぎ、芳しい花の香さえ漂ったかのようだった。 「お……長様?」 「なんです、二人揃ってそんなぽかんとした顔をして」  皆から「長」とだけ呼ばれているその人物は、金の花を散らした扇子で口元を...