妖は宵闇に夢を見つ

夜明けまで 後日談

夜明けまで (四)

その日の昼前に、夜光は長の小御殿に呼び出された。  明るく風通しの良いこの小御殿は、夜光にとって幼い日々の思い出が詰まった特別な場所だ。幼い夜光は、この最玉楼に引き取られてから、長と共にずっとこの御殿で暮らしていた。  広々と天井の高い、長...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (三)

「沙霧は、息災か?」  空気を変えるように、槐が杯を取り直しながら言った。問うてから、気が付いたように言い直した。 「ああ、違うか。今は夜光と呼ばれているんだったな」 「おまえがあの子を呼ぶ分には、沙霧で良いかと思いますよ」 「いや。あれは...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (二)

記憶にある姿とは、大きく異なっている。だが背格好や声、穢れの中に垣間見える妖気は、間違いなく「槐」という名を持つ旧友のものだった。長を「空」という勝手な綽名で呼ぶ者もまた、槐の他には誰も居ない。  さすがに少々驚いたものの、それを認めると長...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (一)

夢のように穏やかで美しい、御伽草紙の中に出てくるような、その街──終の涯は、今年も麗しい春を迎えていた。  煌めく波頭にも似た、連なる甍いらかの美しい街並みを彩る、色とりどりの春の花。街中を、あたりの野山を埋め尽くす、夢幻のような桜花の群れ...
夜明けまで 後日談

夜明けまで (序)

それはほろほろと花の薫る、いつかの春の宵。  開かれた半蔀から、凶報の使者は、その夜突如として長(おさ)の館に飛び込んできた。  長の前で力無く床に墜ち、息絶えた使者──純白の翼を持つ梟は、かつて旧友の肩で見た美しい姿を咄嗟に思い出せないほ...