遣らずの里

妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十七) -完結-

 日毎に寒さが増し、山の中には雪がちらつくことも増えた。 葵の全身の傷は順調に癒えていったが、一度完全に切断されてしまった左腕だけは、さすがになかなか包帯と固定が取れなかった。とにかく感覚が通わず、自分の腕というよりも、ぶら下がった重いモノ...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十六)

 どうやら三昼夜の間、葵はひどい高熱を発していて、意識が戻らないか、戻っても混濁していたらしい。 まだ頭がぼんやりとして全身気怠く、感覚もどこか曖昧だったが、熱がひいたせいかそこまでつらくはなかった。動かずにいる限り、身体もそれほど痛まない...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十五)

 それまでの緊迫感などまるで無視した涼しい風情でそこに立つ槐に、闇蜘蛛は注意深く伺うように、ざわざわと脚を蠢かせた。 槐は葵をそのままに、散歩でもしているような足取りで、数歩を進み出る。すると驚いたことに、闇蜘蛛がそのぶん退いた。 なんとか...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十四)

 夜空を舞う白い姿もそれを追う闇蜘蛛も、とうに視界の先には見えなくなっていた。しかし地面には、あの禍々しい巨躯が駆け抜けていった痕が、はっきりと残っていた。 太い杭を打って土を掘り返したような痕跡についてを、ようやく葵は理解する。これは闇蜘...
妖は宵闇に夢を見つ 蓬莱編

遣らずの里 (十三)

 懐中に常に挿し込んである葵の匕首を取り出し、しゅるりと袋の蓋を括っている紐を解く。「天休斎様。私があの蜘蛛の上に登ったら、演奏を止めて逃げてください」 うずくまっている闇蜘蛛に目をやり、夜光は言う。天休斎は何か言いたげに目を白黒させていた...