妖は宵闇に夢を見つ

天の記憶 番外編

天の記憶

とろりと潤んだ夜気に、仄かな花の薫が漂う。  長おさは香匙を手にしたまま、ふと目を上げた。半蔀にかかる桃の枝から、ひらりひらりと花びらが舞い降りてくる。そこにちょうど掛かっていた朧月に金の瞳を細め、はんなりと微笑を零した。 「ああ……良い風...
妖は宵闇に夢を見つ

「妖は宵闇に夢を見つ」あとがき

このお話を思い付いたときのそもそものコンセプトは「和風人魚姫」でした。 よって、どうしても悲恋にしか成り得なかったお話です。 そんなわけで「妖は宵闇に夢を見つ」、なんとか完結することができました。 様々なご縁からこのお話に目を通して下さった...
妖は宵闇に夢を見つ

終章 彼方の海

ざぁん、と、穏やかに広がる海が波音を立てる。  虚ノ浜と呼ばれる浜辺に、夜光はひとり立っていた。  不思議な虹色を帯びたような青空に、月虹に似た薄い輪を持つ日華が輝いている。碧あおい海は優しく凪ぎ、今日も終の涯はどこまでも穏やかだった。  ...
妖は宵闇に夢を見つ

三章 宵闇に夢を見つ (十五)

長は最玉楼の館に夜光を連れ帰り、寝床に伏せさせた。  長が夜光に施したのは、夢も見ない眠りに誘うはずの術式だったが、昏々と眠りながら、夜光は涙を流し続けていた。  長は夜光の身体を清めて着物を換えてやり、零れる涙を柔らかな布で拭ってやった。...
妖は宵闇に夢を見つ

三章 宵闇に夢を見つ (十四)

「あ、あ……」  着物の前襟をはだけられ、欠けつつある月明かりに、夜光の肉付きの薄い上半身が晒される。葵の手が優しく夜光の肩に這い、腕に這い、脇腹を撫で始める。  今まで無数の手にふれられ、愛撫されてきた肌。だが今肌に覚えるそれは、これまで...