妖は宵闇に夢を見つ

妖は宵闇に夢を見つ

三章 宵闇に夢を見つ (八)

ふわりと、香草の爽やかな匂いが鼻先をかすめた。  身体中がぽかぽかと暖かく、まるでのんびり湯にでも浸かっているように心地良い。  ゆっくりと意識が浮上し、葵は薄く瞼を開いた。白く明るい視界の中に、金色に輝く壮麗な花園や幻獣が見える。じきにそ...
妖は宵闇に夢を見つ

三章 宵闇に夢を見つ (七)

葵の上半身には、まだ脇腹の傷を保護するための包帯が巻かれていた。苦しげな呼吸に上下する胸板は、終の涯に流されて一度はかなり薄くなってしまったが、近頃はだいぶ鍛えられて厚みを取り戻しつつある。  着物をはだけられ、晒された胸元にひやりとした夜...
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三章 宵闇に夢を見つ (六)

怯えて後ずさった葵の左上腕に、素早く夜光の白い手が伸びてきた。葵よりもよほど細い、骨の形がはっきりと分かる、白い腕。 「ひっ」  手加減無くつかまれた腕がぎりっと痛み、それ以上に恐怖で、葵は悲鳴じみた声を上げた。夜光はそれに見向きもせず、葵...
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三章 宵闇に夢を見つ (五)

転げるように麗芳楼を出た葵は、その場に留まることも恐ろしく、少しでも遠ざかろうと路を走った。  だが近頃ろくに食べず、あまり眠ることもできずにいたせいか、情けないほどすぐに息が上がった。  鏡花の姿が、突きつけられた言葉が、ひたすら頭の中を...
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三章 宵闇に夢を見つ (四)

わけの分からないまま、葵は身支度をし、当初の予定通り最玉楼を出て貴彬の屋敷に向かった。  ここのところ連日訪れているそこは、今日も変わらず静まり返っていた。叩き金を鳴らし、塀を回り込んで垣根の間から中を窺う。締め切られたままの遣り戸に、もは...