妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (八) ふわりと、香草の爽やかな匂いが鼻先をかすめた。 身体中がぽかぽかと暖かく、まるでのんびり湯にでも浸かっているように心地良い。 ゆっくりと意識が浮上し、葵は薄く瞼を開いた。白く明るい視界の中に、金色に輝く壮麗な花園や幻獣が見える。じきにそ... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (七) 葵の上半身には、まだ脇腹の傷を保護するための包帯が巻かれていた。苦しげな呼吸に上下する胸板は、終の涯に流されて一度はかなり薄くなってしまったが、近頃はだいぶ鍛えられて厚みを取り戻しつつある。 着物をはだけられ、晒された胸元にひやりとした夜... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (六) 怯えて後ずさった葵の左上腕に、素早く夜光の白い手が伸びてきた。葵よりもよほど細い、骨の形がはっきりと分かる、白い腕。 「ひっ」 手加減無くつかまれた腕がぎりっと痛み、それ以上に恐怖で、葵は悲鳴じみた声を上げた。夜光はそれに見向きもせず、葵... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (五) 転げるように麗芳楼を出た葵は、その場に留まることも恐ろしく、少しでも遠ざかろうと路を走った。 だが近頃ろくに食べず、あまり眠ることもできずにいたせいか、情けないほどすぐに息が上がった。 鏡花の姿が、突きつけられた言葉が、ひたすら頭の中を... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (四) わけの分からないまま、葵は身支度をし、当初の予定通り最玉楼を出て貴彬の屋敷に向かった。 ここのところ連日訪れているそこは、今日も変わらず静まり返っていた。叩き金を鳴らし、塀を回り込んで垣根の間から中を窺う。締め切られたままの遣り戸に、もは... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ