L.D. 一週間後に咲く花へ (1) アゲハが橘慧生のマンションを訪れてから、一週間が過ぎようとしていた。 その間、抱えていたいくつかの原稿の締め切りが近かった慧生は、難しそうな顔でパソコンを睨み、溜め息を繰り返し、ほとんどそれにかかりきりだった。 本調子でさえあれば、本来... 2020.08.08 L.D.一週間後に咲く花へ
Farasha Farasha (5) -完結- 「アゲハ……」 目を瞠った慧生に、アゲハが慌てたように顔を隠し、シャツの袖でごしごしと目許をこすった。 「ご……ごめんなさい。大丈夫、です」 あまり大丈夫であるようには見えないアゲハを、慧生は目を瞠ったまま見つめていた。 ──こんなも... 2020.08.08 FarashaL.D.
Farasha Farasha (4) 暗い窓は、風に煽られた水滴が硝子に当たる、ほんの微かな音を室内に這わせていた。 書斎として使っている部屋の中、木製のシンプルなデスクに向かって、慧生は何をするわけでもなく座り込んでいた。 美玲羽の受賞を知るなり無言で立ち上がり、書斎にこ... 2020.08.08 FarashaL.D.
Farasha Farasha (3) 夢見心地に、いくつかの音が聞こえていた。何かは分からないが、日常的によく聞き覚えている類いの生活音。 それらの中に時折、しゃらんという涼やかで軽い金属的な音が混ざる。控えめで小さな物音に、煩わしさよりも心地良さと、どこか安堵感を覚える。 ... 2020.08.08 FarashaL.D.
Farasha Farasha (2) 白い少年の掌が、ぽかんとしている慧生の上腕から肩に、ごく当たり前のように移動してくる。少年の小柄な身体つきそのままに、あまり大きくはない手。そして少女の手を思わせるほど繊細な指と、すべらかな手の甲。 邪気の欠片も見えない真紅の大きな瞳が、... 2020.08.08 FarashaL.D.