L.D.

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一週間後に咲く花へ (1)

アゲハが橘慧生のマンションを訪れてから、一週間が過ぎようとしていた。  その間、抱えていたいくつかの原稿の締め切りが近かった慧生は、難しそうな顔でパソコンを睨み、溜め息を繰り返し、ほとんどそれにかかりきりだった。  本調子でさえあれば、本来...
Farasha

Farasha (5) -完結-

「アゲハ……」  目を瞠った慧生に、アゲハが慌てたように顔を隠し、シャツの袖でごしごしと目許をこすった。 「ご……ごめんなさい。大丈夫、です」  あまり大丈夫であるようには見えないアゲハを、慧生は目を瞠ったまま見つめていた。  ──こんなも...
Farasha

Farasha (4)

暗い窓は、風に煽られた水滴が硝子に当たる、ほんの微かな音を室内に這わせていた。  書斎として使っている部屋の中、木製のシンプルなデスクに向かって、慧生は何をするわけでもなく座り込んでいた。  美玲羽の受賞を知るなり無言で立ち上がり、書斎にこ...
Farasha

Farasha (3)

夢見心地に、いくつかの音が聞こえていた。何かは分からないが、日常的によく聞き覚えている類いの生活音。  それらの中に時折、しゃらんという涼やかで軽い金属的な音が混ざる。控えめで小さな物音に、煩わしさよりも心地良さと、どこか安堵感を覚える。 ...
Farasha

Farasha (2)

白い少年の掌が、ぽかんとしている慧生の上腕から肩に、ごく当たり前のように移動してくる。少年の小柄な身体つきそのままに、あまり大きくはない手。そして少女の手を思わせるほど繊細な指と、すべらかな手の甲。  邪気の欠片も見えない真紅の大きな瞳が、...