メビウスの蛇

メビウスの蛇

三章 赤い涙 (1)

『おまえがフィロネルか』  ​​​──突然そう呼びかけられたとき、色々な意味でひどく驚いたのを覚えている。  当時の自分はまだほんの子供で、それでも自分が「皇子」という特別な立場であることは、なんとなく理解していた。名を呼び捨てにされること...
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二章 氷滴 (6)

宴を好まないフィロネルではあったが、何かしらの祭事や他国から客人を迎えたときなど、フィンディアスという国として催さなければならないときはある。また、皇子自身は宴を好まなかったが、度を越して贅沢であったり享楽に走らなければ、宮廷主催で宴を開く...
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二章 氷滴 (5)

三日間の猶予は、瞬く間に過ぎていった。  そもそも昼間のうちは、慣れないせいもあって悠々と自分のために時間を使う余裕などなかった。これでも暇ではない、とはフィロネルは言っていたが、それは誇張でも何でもないことを、一両日のうちにユアンは理解し...
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二章 氷滴 (4)

​​​──すべて夢だったら。  それからまたベッドから起き上がれない朦朧とした時間を過ごしながら、ただそればかりを考えていた気がする。  眠っているのか目覚めているのか分からない曖昧な中で、繰り返しユアンのもとを訪れたのは、生まれ育った屋敷...
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二章 氷滴 (3)

言葉もないユアンをよそに、フィロネルがまたベッドの方に足を運んでいき、何かを手に戻ってきた。  次はいったい何をされるのかと、フィロネルの一挙手一投足に、ユアンはどうしてもびくつく。憎いその姿を見返す気力すらどうかすると尽きてしまいそうで、...