妖は宵闇に夢を見つ

妖は宵闇に夢を見つ

二章 月の魔性 (十一)

締め切った丸窓の障子に、蒼い月影がかかる。いつもの控えの間にひとり立った夜光は、湯浴みをしたばかりの肩から、さらりと浴衣をすべり落とした。  蒼い障子の前に輪郭を浮かび上がらせる処女雪の如く白い裸体は、骨の形が分かるほど華奢で肉付きが薄い。...
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二章 月の魔性 (十)

「夜光。いるか?」  相変わらずぴたりと閉まったままの障子の前に立ち、呼びかけてみたが、返事も気配も無かった。やましさに心の中で詫びながら、少しだけ障子を引いてみる。やはり部屋の中は、もぬけのからだった。  殺風景なほど片付いた眺めと、床の...
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二章 月の魔性 (九)

思いがけず貴彬と関わりを持ったことは、葵にとって物事が良い方向に動く足がかりとなった。少なくとも、人間の身で終の涯で生きることに対する漠然とした不安が、「自分にもやれることがある」と分かったことで、多少なりとも払拭された。 「うん。悪くない...
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二章 月の魔性 (八)

この店の甘味が好きなのだ、という。そういえば、以前もこの甘味処の前でこの男に遭遇した。もしかしたらあのときも、貴彬はこの店目当てにやってきたところだったのかもしれない。  古びた木の卓に貴彬と向かい合って座り、思わぬ成り行きに葵は困惑気味だ...
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二章 月の魔性 (七)

──墨で塗り潰されたような空に、あかあかとした炎が照り映えている。葵はそれを、ただぼんやりと、どこか壁を一枚隔てたような心地で眺めていた。  水を通しているような、滲んでいるような揺らいでいるような光景の中に、わぁん、と様々な音が充満してい...