メビウスの蛇

メビウスの蛇

五章 星の流れる先 (1)

強いショックを受けたせいなのか、頭が割れそうに痛み、視界が回転するような眩暈がした。休み休みよろめきながら、ようやくユアンは自室に辿り着いた。 熱があるわけではないだろうが、ひどく具合が悪かった。気が付けば額に脂汗が浮かび、全身から血が下が...
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四章 神の死 (5)

まだ冬の手前なのに、その日はひどく冷え込んでいた。 昼食をとるための休憩時間中だったが、食欲のないまま無目的に宮殿内を歩いていたユアンは、窓の外にちらちらと白いものが舞っているのに目をとめた。 物珍しさも手伝い、どっしりとした柱の並ぶ回廊か...
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四章 神の死 (4)

皇子と医師団、それからごく一部の高官を除いては、皇帝の寝所に立ち入った者はこれまでいなかったらしい。 ユアンはあれから、何人もの者に沈痛な面持ちで呼び止められ、皇帝の様子はどうだったかと訊ねられた。 ユアンはそれらに、無言で首を振る他になか...
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四章 神の死 (3)

ユアンは大きく目を見開いて皇子を凝視したきり、言葉を継げなかった。呼吸すら忘れかけていたことに、我に返った途端、胸の苦しさを覚えて気付く。 思わず大きく呼吸をし、同時に漂う腐臭を吸い込んで吐き気を催して、ユアンは身震いした。「……そんな話。...
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四章 神の死 (2)

ユアンの知る限り皇子に特別な予定は入っていないはずだったが、その日もその翌日も、閨に呼ばれることはなかった。 こちらの体調を気遣っているのか、それともユアンが知らないだけで用事があるのか、それは分からない。従者という比較的身近な立場ではあっ...