妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (三) うっすら空腹感はあるのに、いざ朝餉を前にすると、葵はほとんど箸をつけられなかった。厨房へ膳を下げに行きながら詫びて、ひとまず今日の食事は粥だけにしてくれるように頼む。 夜光と顔を会わせることは無く、そのことにほっとしながら身支度をして、早... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (二) 「葵……?」 耳朶にしっとりと響く声が、葵の名を呼ぶ。 ──夜光だ。 その姿を見、声を聞いた瞬間に、当たり前と言えば当たり前な、だがしみじみと胸に迫ってくる実感が生まれてきた。 青い紫陽花の群れの中に佇む、儚く消え入りそうなほど、夢... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 三章 宵闇に夢を見つ (一) 結局何があったのか分からないまま、葵はその社を離れた。 夜光に会うことが空恐ろしかったが、最玉楼に戻らないわけにはいかない。こういうとき、やはり自分にはまだろくに寄る辺の無いことが、ひしひしと身に染みる。 夜光が立ち去ってから、既にかな... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 二章 月の魔性 (十三) お慕いしています、と耳元に繰り返し囁き、縋り付いてくる夜光の唇を、貴彬は己の唇で塞いだ。勢力を増す初夏の青草はまだ柔らかく、匂いが強い。その上に夜光の被衣を広げて二人で身を横たえると、まるでこれが夢であるような気がした。 これでようやく夜... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ
妖は宵闇に夢を見つ 二章 月の魔性 (十二) 脇戸から外に出て見回すと、幸いすぐに夜光は見つかった。だがその白い後ろ姿は既に遠く、葵は慌てて、だが慎重に、その後を追いかけた。 街には朱を増し始めた夕陽がかかり、夕凪の中に妖達が賑やかに行き来している。元来妖は、日中よりも夕暮れから夜間... 2020.08.08 妖は宵闇に夢を見つ